「うーん。それなら、どうすれば……」

 食にうるさい付喪神を満足させる方法など、簡単に見つかるものなのか。
 これなら絶対大丈夫!というものが見つかれば良いのだが、いくらなんでも答えに辿り着くには知識が足りなすぎるだろう。

「あ……」

 そのとき、あることに気がついた花は、ハッとして顔を上げた。

「花、どうしたんじゃ?」

「というか、そもそも私達三人で悩むより、料理のことなら今の料理長に相談したほうが早くないですか!?」

 花の提案に、ぽん太と黒桜が意表を突かれたかのように目を丸くした。
 もとより料理に関することに限定するのなら、専門外の四人がここで延々と悩んでいても、答えに辿り着ける望みは薄い。

「登紀子さんのお弟子さんならきっと、虎之丞さんを攻略するヒントを知ってるかもしれないですし!」

「まぁ……確かに、そりゃそうじゃな」

「はい、そうですね。花さん、グッドアイデアだと思います」

 ぽん太と黒桜に賛同してもらい、花は益々嬉しそうに胸を張った。
 そもそも花は昨日の説明の段階で、厨房を案内はされたのだが料理長に会うことは叶わなかった。

(昨日は、料理長がちょうど休憩中だって言われたんだよね……)

 その後も部屋の準備や、ぽん太の長話に付き合わされたせいで、未だに厨房に顔を出せていない。

「そうと決まれば私、今からさっそく相談に行ってきます! 料理長にご挨拶もまだだったし、せっかくなのでご挨拶もしてきますね!」

 そう言った花は、張り切って厨房へと向かった。
 しかし、そんな花の背中を見送るぽん太と黒桜の表情は生憎ながら複雑だ。

「うーむ……大丈夫かのぅ」

「まぁ、なるようにしかなりませんしねぇ」

 その声が、足早に去った花の耳に届くことはない。
 対して八雲は「ふんっ」と鼻を鳴らすと踵を返して、ひとりさっさとその場をあとにした。


 ♨ ♨ ♨


「失礼します。料理長さん、いらっしゃいますか?」

 美しい中庭を横目に木の香りの漂う回廊を進むと、厨房にたどり着く。
 木の枠で囲まれた入口の前で足を止めた花は小さく深呼吸をしたあとで、緊張しながら厨房の奥へと声を投げた。

(あれ……いないのかな?)

 けれど、待てど暮せど厨房の中から返事はない。
 今日は宿泊予約も入っていないことだし、料理長はどこか別のところにいるのかもしれないと花は一瞬考えたが、中からは昨日も嗅いだお味噌汁の良い匂いと湯気が、ほのかに香っていた。

(火をつけっぱなしで出掛けるなんてことはないよね?)

 仮にも料理長ともなる人物が、軽率なことをするとは考え難い。それでも確認の意味も兼ねて、花は厨房の中へと足を踏み入れた。