「だけど万全を期すって、一体どんな方法で……?」

「それは……のぅ?」

「はい……そう、ですねぇ……」

 案の定、花の問いかけに、ぽん太と黒桜は腕を組んで押し黙った。
 つまり今すぐ解決策は見つからないということだ。
 煮えきらない様子のふたりに、花の胸には不安が積もる一方だった。

「ハァ……。とりあえず、まずは食事だろう」

「え……?」

 そのとき、今の今まで三人のやり取りを静観していた八雲が口を開いた。

「虎之丞は、とにかく食にうるさいからな。好物を用意して、虎之丞が満足するものを提供するのが一番の解決策だ」

「虎之丞さんが、満足するものを……」

 八雲の言葉にハッとして顔を上げたぽん太と黒桜は、途端に表情を明るくして声を上げる。

「そうじゃな、八雲の言うとおり! まずはそれじゃ!」

「はい、はい……! そうですよ! 私の宿帳のデータによると、確か虎之丞殿は海の幸がお好きだったはずです!」

 目を閉じて、手元でパラパラとページを捲る動作を見せた黒桜は言葉を続ける。

「ああ、やっぱりそうだ。中でも鯵がお好きで、前回は登紀子さんがお出しした鯵のなめろうに舌鼓を打っていましたね。……ああ、でも、帰り際に刺し身は食い飽きたとも漏らしています。それを登紀子さんが嗜めて、次こそは満足いくものをお出しすると約束したことで、デレデレとしておりました」

 さすが、宿帳の付喪神といったところだろう。黒桜は宿泊客である付喪神の情報すべてを管理し、いつでも引き出すことができるようだ。
 「顧客の情報管理は任せてください」と胸を張った黒桜に、花は目を輝かせて拍手を贈った。

「ということは、つまり、"鯵を使った刺し身ではない何か"で、おもてなしをすればいいんですね?」

 花が身を乗り出して尋ねる。

「うーむ。鯵と聞いたら、花と鏡子に出した、つくも特性まご茶漬けが思い浮かぶが……」

 対してぽん太は、短い腕を組んで眉根を寄せた。
 ぽん太の言うとおり、先日花が食べたまご茶漬けにも虎之丞の好物である鯵が使われていた。
 しかし、まご茶漬けは、鯵の刺し身がご飯の上に乗っているのが基本形である。
 いくら出汁をかけて食べるとはいえ、それで虎之丞が満足するかどうかは些か疑問を抱かずにはいられなかった。