「……とりあえず、善ポイントを稼ぐために仲居として働かなきゃいけないことはわかりました。でも、なんで八雲さんの嫁にならなきゃいけないんですか」

 働くだけなら八雲の嫁になる必要はないだろう。そう思う花の意見は至極真っ当で、自分が八雲の嫁になるなど真っ平ごめんだと言いたかった。

「ただの人である花がここにいるためには、常世の神を納得させる理由が必要なんじゃよ」

「常世の神を納得させる理由……?」

「はい。通常、"人"は現世のみで生きている存在ですから、ここに来ることはできません。ですから、花さんがここに居続けるには"特別な理由"が必要なんです」

 黒桜の補足を聞いた花は、とうとう頭を抱えたくなった。

「いいですか。つまり、つくもの主人である八雲坊のお嫁様になれば、花さんが"ここにいる理由"ができるということです」

「あー……なるほど」
(……って、ちっともなるほどじゃない!!)

 花は思わず心の中でツッコんだ。
 すると今の今まで黙りこくっていた八雲が得意の舌打ちを鳴らし、ぽん太と黒桜に反論した。

「俺はこんな女が嫁になるなど、絶対に認めないからな」

 断固たる拒絶だ。もう少しオブラートに包めないものかと花は思う。
 しかし花もまた、八雲の嫁になりたいわけではないどころか断固拒否の姿勢は同じなので、「うんうん」と大きく首を縦に振り、応戦した。

「でもなぁ、八雲よ。お前さんももういい年じゃし、そろそろ嫁候補だけでも決めておかんと常世の神も黙っとらんぞ」

 憤慨する八雲に向けて、ぽん太が諭すように言葉をかける。

「いい加減お前も常世の神や、わしや黒桜に、嫁はまだかとせっつかれるのも嫌じゃろう」

「そんなの知るか、どうでもいい」

「あ……では、こんなのはどうでしょう? 花さんを本当にお嫁様としてお迎えするのではなく、嫁候補としてつくもに迎え入れる……というのは」

「嫁候補?」

 花が黒桜に聞き返すと、ぽん太が「それは名案じゃ!」と言ってポンッ!と軽快にお腹を叩いた。