「すみません……その、善ポイントってなんですか?」
「はい。簡単に言えば現世で言う"お金"ですね。付喪神たちは日頃、現世で何かのために働き"善ポイント"を稼ぐのです。そして貯まったポイントを使って、ここ極楽湯屋つくもに日頃の疲れを癒やしにいらっしゃいます」
「じゃから花も、善ポイントを払わないと無銭飲食、無銭宿泊になってしまうということじゃ」
黒桜とぽん太の言葉に、花は驚いて目を見張った。
「で、でもっ。私は付喪神じゃないから、善ポイントなんて持ってないし……。そもそもそんな話、泊まる前にはしてなかったじゃないですか!」
慌てて花が抗議をすると、ぽん太と黒桜は白々しく首を傾げた。
「あれぇ〜、言わなかったかのう? 黒桜?」
「ええ。どうでしたかね、覚えておりません」
ふたりは完全にとぼけている。
付喪神のくせに人に嘘をつくとは何事かと花はツッコみたくなったけれど、そういえば昔……母がまだ生きていた頃に、「もったいないオバケは人にイタズラする生き物なのよ」なんて言っていたような気もする。
「そ、それじゃあ、その善ポイントでお支払いするにはどうすればいいですか⁉」
憤りを堪えながら花が尋ねると、ぽん太と黒桜は待ってましたとばかりにニマァッと笑って口を開いた。
「人が現世で稼ぐことができるのはお金だけじゃから、花は現世ではないこの場所で、働いて善ポイントを稼ぐしかないのぅ」
「え……」
「ちょうど今、仲居を募集中だったのです。それと、八雲坊のお嫁様も大募集中でして!」
「お嫁、様……?」
言われていることの意味がわからず、花は石像のように固まった。
(ちょっと待って、どういうこと……? いや、そういえば確か、あのときぽん太さんが……)
思い出すのは、花がぽん太と初めて会ったときの会話だ。
熱海サンビーチでぽん太と出会い、話しかけられたときにも確か、ぽん太は『とあるお宿の主人の嫁になるチャンスがどうのこうの〜』と、言っていたような、いなかったような気がする。