「……またいつか、会えるよね」

 鏡子の入っていた金襴袋を抱き締めて寝た花は、それを手に取りそっと微笑んだ。

『ええ。またいつか、必ず』

 すると不思議と鏡子の優しい声が聞こえた気がして、胸には温かい灯火が点ったような気持ちになる。

「おっ、はようございまーす‼」

「お客様、昨夜はよく眠れましたか⁉」

「わぁっ⁉」

 けれど、花が鏡子に思いを馳せていたら、予告なく部屋の扉が開かれた。
 現れたのは、ぽん太と黒桜のふたりである。寝起きの花の目は完全に冴え、突然現れたふたりを見て面白い顔で固まった。

「なんじゃなんじゃ、その笑える顔は。しかし、昨夜はよく眠れたようで良かったのぅ」

(やっぱり、全部夢じゃなかったんだ……)

 一夜明けても、ぽん太はもふもふのしゃべるたぬきだ。
 何故か満面の笑みで腕を組んで頷くぽん太を前に、花は慌てて姿勢を正した。

「さ、昨夜は泊めてくださって、ありがとうございました。お陰で、ゆっくり休むことができました」

 感謝の言葉を告げると、ぽん太もまた満足そうに頷いてみせる。

「これから支度をして、整い次第ここを出たいと思っています」

 けれど花が「帰る」と口にした途端、ぽん太と黒桜の表情が曇った。

「ああ……それは困りましたなぁ」

「困る?」

「花さん、お支払いはどうなさるおつもりですか?」

 黒桜に尋ねられ、一瞬キョトンと目を丸くした花だが、すぐに宿泊代金のことを言われているのだと気が付き返事をした。

「もちろん、お支払いします。鏡子さんと、ふたり分で大丈夫です。え、と……それで、一泊の料金はおいくらですか?」

 持ち合わせで足りればいいのだけれど、と花は思ったが、最悪カードでの支払いが可能かも聞いてみる必要がある。

「今の時期のおひとり様のご宿泊料は、(ぜん)ポイント半年分になります」

「善……ポイント?」

「はい。鏡子さんとのおふたり分であるなら、善ポイント一年分ということになりますね」

 善ポイントというのは、花には聞き覚えのない言葉だった。
 黒桜の言っていることの意味がわからず、花は首を傾げて質問を投げかける。