(わ……!)
逸る気持ちを堪えきれず、花はレンゲで中身をすくった。
そして、そっと口に近づけ香りを堪能したあとで、豪快に一口で頬張った。
「ん、んん〜〜〜……っ!!」
声にならない美味しさとは、まさにこのことだ。
鯵の干物の塩気とプリプリコリコリになった鯵のタタキ、そして芳醇な出汁の香りが絶妙に絡み合い、最高の一品に仕上がっている。
ゴクリと飲み込めば、口の中には出汁の旨味が残ってその余韻がたまらない。
早く、もう一口……。
冷めないうちに、もう一口……!
熱いまご茶漬けはその名の通り、まごまごしていられなくなるほどに美味しく、心から幸せになれる一品だった。
「最高に美味しい……」
ぽつりと呟いた花は、自分の鼻の奥がツンと痛むのを感じた。
(ああ、ワサビを入れたから……)
花は、その痛みはワサビのせいだと思った。
だけど──違った。鼻に触れた花の手は、何故かじんわりと濡れていた。
「おい…………」
「え……?」
(何、これ……)
花は、自分でも気づかぬうちに泣いていたのだ。
花の頬を、温かい涙の雫が音もなく零れ落ちていく。
今まで落ち着き払っていた八雲も驚いた表情で花を見つめ、花自身もまた自分が泣いているのだということに気づいて驚き、慌てて頬を伝う涙を拭った。
「え……っ!? 嘘……っ。私、なんで泣いて──」
母が亡くなって以来、涙を流すことをしてこなかった花は酷く狼狽えた。
(まご茶漬けの美味しさに感動しすぎたせい……!?)
花は一瞬そう思ったが、食べ物を食べて泣くほど自分が空腹だったと思うと情けない。
(好きになった相手が実は結婚していたと知らされたときですら、泣かなかったのに……)
それなのに空腹が満たされたことで泣くなんて、食べ物に飢えた人だと公言しているようで恥ずかしくてたまらなかった。
「ご、ごめんなさい。私、こんなふうに泣いて、みっともない──」
「……もう、泣いていいのよ」
「え……?」
そのとき、向かいに座していた鏡子が花に声を掛けた。ハッとした花が鏡子を見ると、鏡子はまるで慈しむような表情で、花のことを見つめていた。



