「それに、今は付喪神様のことを知れて良かったとも思っています。みんな、私たち人とは違う世界を生きている神様だけど……。そんなみなさんから、学ぶことがたくさんあると感じています」
そう言うと花は改めて、ここに来てから出会った数々の付喪神たちのことを思い浮かべた。
ときどき人を驚かせたり、いつも自由気ままな神様たち。
けれどいつでも自分の心に正直で、真っ直ぐな神様たちのお陰で、花自身も自然と自分の感情や涙を表に出せるようになっていた。
「みんな、私達と同じように家族を想って、恋をして、自分の生き方に誇りを持ちながら……今を生きてる。私みたいなひよっこは、そんな付喪神様たちから、まだまだ学ぶことがたくさんあると思うんです」
そう言うと花は、背の高い八雲を真っすぐに見上げて会心の笑顔を見せた。
「だから、これからもここで八雲さんの嫁候補兼、仲居として働かせてください。そしていつか八雲さんにも……人も、案外捨てたもんじゃないなって思ってもらえたら、嬉しいです」
大輪の花を咲かせたような、花の眩しい笑顔に八雲は見惚れた。
そして、そっと瞬きをしたあとで──まるで息をするように、顔を綻ばせる。
「認めたくはないが──もう既に、思っているよ」
「え……」
「……いや、いい。それより──"花"。手を出してみろ」
花、と。八雲が初めて面と向かって花のことを名前で呼んだ。
これまでは「お前」と呼ばれることが常だったのに、不意打ちで名前呼ばれた花は思わず瞬きを繰り返して息を呑んだ。