「ふん、生意気な……。しかし、すでに他の男のものであるのなら仕方がない」

 と、呆れたように言った薙光が、再び花へと目を向けた。

「なぎ、みつ様……」

 薙光の情熱的な瞳に射抜かれた花は一瞬ゴクリと喉を鳴らしたが、すぐに我にかえると慌てて首を横に振る。

「申し訳ありません、私……」

「困らせるつもりはなかった」

「え……?」

「そなたも、こやつと同じ気持ちならば仕方がない」

 薙光はそう言うと、フッと息をこぼすように微笑む。

「とりあえず、今回は諦めるとしよう。しかし花、八雲に飽きたらいつでも俺を頼ってこい。そのときには俺が、そなたを幸せにすると約束しよう」

 本当に、完全なる乙女ゲームのヒーローだ。
 ……と、花が思わざるを得ないほど、薙光は完全無欠の国宝級の美男で誠実な付喪神だった。

「色々と、ありがとう。それではまた必ず、ここで会おう」

 去り際に、そう言い添えた薙光を前に花の心が揺れたのは言うまでもない。

「はぁ〜〜〜〜……」

 それでも颯爽と石畳を歩いて帰っていった薙光御一行の姿が見えなくなったあとで、花は全身の力が抜けたように思わず安堵の息を吐いた。

「まぁ、ほんに嵐のようじゃったのぅ」

 ぽん太に黒桜、そしてちょう助も同じ気持ちだったようだ。
 三人はそれぞれに安堵の息を吐くと脱力して、声にならない声を溢して瞼を閉じた。

「でも……薙光殿が、突然花さんに求婚したのには驚きました」

「うん……。一年分の善を心付けとして渡すって言ったときにも驚いたけど……。でも、どちらにせよ花が辞めることにならなくて、安心した」

 ちょう助はそう言うと、花へとちらりと目を向ける。

「いきなりお別れなんて寂しすぎるし。俺……もっと花と一緒にいたいから、花が断ってくれて嬉しかった」

「ちょう助くん……」

 照れくさそうに笑ったちょう助を前に、花はまた胸の奥が熱くなった。

「本当に冷や冷やしたが……まぁ最後には八雲がしっかりと花を守ってみせたから、結果オーライと言うところかの?」

 そのとき、目をアーチのように細めてにやりと笑ったぽん太が、花と八雲を交互に見た。