「今日はそなたらが用意した宴、ゆるりと楽しませてもらうことにする」

 そう言って仲間たちのそばへと向かった薙光はその後、言葉の通りにデザートバイキングを堪能してくれたようだった。

「──よくやったな」

 薙光や、名刀である付喪神たちの笑顔を眺めていた花の隣に立った八雲が、優しい声を響かせる。
 その八雲の声に小さく頷いた花は前を向いたまま、囁くように返事をした。

「付喪神も人も……同じなんですね」

 ぽつりと溢した花の声は、八雲が確かに受け止める。

「お互いが、お互いを尊重し合いながら生きている。ものが私たちの暮らしを豊かにしてくれているように、私たちもまた、その"もの"を大切にしなければいけないんだって──つくもに来て、改めて気づくことができました」

 花が口にした想いに、八雲は「そうか」とただ一言、ぶっきらぼうな返事をくれただけだった。
 けれど今の花には、それだけで十分だった。
 それ以上の返事を貰ったら贅沢だと思えるほどに……花の心は今、幸せで満ちていた。


 ♨ ♨ ♨


「この度は、本当に世話になったな」

 翌日も、暖かい春の日差しが気持ちの良い朝だった。
 御一行のお見送りのために勢揃いしたつくも一同を前に、薙光は丁寧に頭を下げると美しい顔で微笑んだ。
 うっかりすると、あまりの美男さにクラクラして貧血でも起こしそうになる。

(薙光さんがもしも本当に乙女ゲームのヒーローだったら、私は推して課金する自信がある……)

「お忙しいとは思いますが、またいつでもいらしてください」
 
 花は邪心を振り払うように仲居として返事をしたあと、薙光を見て努めて冷静に笑みを浮かべた。
 けれどそんな花を前に、薙光が一歩距離を詰めると改めて花に向かって極上の笑みを見せる。

「昨夜はそなたのおかげで、実に有意義な時間を過ごすことができた」

「え……」

「そこで、そなたにどうお礼をしようか考えたのだが……。我々を最高のもてなしで満足させた褒美に、そなたには心付(こころづ)けとして俺が持つ残りの善を全て譲り渡すことにした」

 思いもよらない薙光の言葉に、そこにいたつくもの全員が凍りついた。

「な、薙光さんが持つ善、すべて……?」

 花の声も震えている。
 花はまさか自分が薙光に課金されるなどとは予想外だった。

「ああ。有り難いことに、近年刀剣を始めとする我々名刀は忙しくてな。ここの支払いに使っても尚、善が有り余っておる。だからその残りを、心付けという名目でそなたに譲り渡そうというわけだ」

 ニッコリと微笑む薙光を前に、花は目を白黒させて固まった。