「でも、本当は……この話はデザートバイキングにだいだいを使おうと決めてから知った話なんです。だけどこの話を知ったときに、皆様をおもてなしするのに、これ以上のものはないと確信が持てました」

「確信……?」

「はい。今回のおもてなしでは薙光様を初めとした皆様が、この先も代々受け継がれ、貴重な歴史を紡いでいけるように……という願いを込めさせていただきました」

 そう言うと花は真っすぐに、薙光を見据える。

「私たちの知らない過去を生きてきた薙光様を初めとする付喪神様たちのおかげで、私たち人は、"便利な今"を生きることができるんです」

「──っ、」

「そして、そんな付喪神様たちが今の時代を幸せに生きる手助けをするためにあるのが、きっとここ、極楽湯屋つくもなんだと思います」

 そこまで言った花の頬を、ふわりと優しい風が撫でた。
 花の後ろに立っていたぽん太に黒桜、ちょう助……そして八雲は、薙光を前に堂々と立つ花の背中を見つめながら、穏やかな笑みを浮かべる。

「日頃の疲れをここで癒やしたみなさんが、また現世でのお勤めに励めるように……。私たちはこれからも、みなさんを最高のおもてなしでお迎えしていきたいと思っています。だから、今回のだいだいを使ったデザートバイキングは、薙光様たちにこそ食べていただきたい、我々つくも一同が心を尽くした最高のおもてなしであると、自信を持って断言できます!」

 花はそう言うと、大輪の花が開いたような笑顔を見せた。
 その花の言葉と笑顔に、薙光は面食らった表情をしたが、すぐに「そうか……」と呟き、とても穏やかに目を細める。

「……なるほど。そなたの気持ちはよくわかった。……先程は、大変無礼な物言いをして悪かったな」

 と、唐突に薙光が、頭を下げた。
 花は慌てて我にかえると、「いえいえ……!」と焦った様子で両手を顔の前に突き出した。

「こ、こちらこそ生意気なことばかり言ってしまって申し訳ありません! 人である私が、国宝の薙光様に偉そうなことを言うなんて罰当たりでしたよね……」

 途端にそれまでの威勢の良さを失くした花を前に、薙光はくつくつと喉を鳴らして面白そうに笑った。

「そなたは実に面白い女子(おなご)だ。しかし……そなたの心意気、しかと心に届いたぞ。どうやら俺は少々……頭が固くなっていたようだ」

「え……」

 薙光はそう言うと、今度はデザートバイキングの前で笑顔の花を咲かせている仲間たちへと目を向けた。

「今を生きるものたちに、我々の生きてきた歴史を伝えたい。それが我々の本懐であるように……我々もまた、今を生きるものたちの考えを知っていくべきなのだろう」

 そっと口元に笑みを浮かべた薙光は、しばらく賑やかな光景を眩しそうに眺めたあとで、徐に花へと視線を滑らせた。

「そなたが教えてくれたことだ。まさか、時代遅れとまで言われるとは思わなんだが……」

 クッ、と、口元に手を当て、薙光は喉を鳴らして笑う。
 花はまた小さくなって、「すみません」と溢して萎れた。

「謝るな。腹を立てているわけではないのだ。ただ、今回のように俺に歯向かう女子と会うのはいつぶりかもわからぬことで、大変痛快なことであったよ」

 そっと目を細めて笑う薙光の笑顔は、まるで無邪気な子供のようでありながらも隙のない美しさを兼ね備えていて、花は思わずポーッと見惚れてしまった。

「互いが互いを尊重し合う。それが共存するということなのだからな。そなたのおかげで改めてそれに気づくことができた。この度は、これ以上ない最高のもてなしをしてくれたことに礼を言う。──ありがとう」

 薙光のその言葉を聞いた瞬間、花の目には涙が滲んだ。
 ──ありがとう。
 今はただ、その言葉が何よりも嬉しくて、誇らしい。