「あ、薙光殿、いらっしゃったのですね!」

「すごいですよ! このように美しく楽しげな料理の数々を見るのは、我々も初めてです!」

 宴会場の入口で呆然と立ち竦む薙光に、一足先に宴会場を訪れていた仲間たちが声を掛けた。

「さぁ早く、薙光殿も食べましょう!」

「こんなにあっては、どれから食べるか迷ってしまいますが……!」

「本当に、このように心が弾むのはいつぶりかわかりません! その上、気に入ったものがあれば美術館の面々たちへの手土産として、改めて包装したのち、持ち帰り用を用意してくれると言うことですからいたれりつくせりでございますよ!」

 キラキラと目を輝かせる名刀たちはそう言うと、それぞれに喜びの笑みを浮かべて皿を持った。
 まるで子供のような、はしゃぎぶりだ。
 けれど彼らのその様子を見ていた薙光は、しばらく言葉を失くして固まっていたが、不意に肩の力を抜くと息をこぼすように破顔した。

「……ふっ、なかなかに幸せそうだな。その上、ここで食べて気に入ったものを美術館の面々への土産にできるとは、恐れ入った」

 それは、花が出したアイデアのひとつだった。
 八雲と大楠神社に出かけた際に、つくもの面々に土産を買うか買わないかで迷ったことから思いついたことだった。

「きっと……自分の仕事に誇りを持っていらっしゃる薙光様たちであれば、自分たちと一緒に働くものたちへの労いも忘れないと思いまして……」

 こうして決まって何十年かに一度、社員旅行をするほどだ。
 薙光が自分と一緒に働く仲間を大切に思っているであろうことは容易に想像することができた。

「薙光様にも、何かお取りしましょうか?」

 そう言って花が微笑むと、薙光はフッと息をこぼすように笑みを浮かべて、「ならば、そなたのススメのものを」と返事をした。

「それなら、だいだいのマカロンはいかがでしょうか?」

「だいだいの……マカロン?」

「はい。マカロンとは、卵白と砂糖とアーモンドを使った焼き菓子の一種なのですが、今回はそのマカロンの生地に、だいだいの皮を加えて、だいだいを最大限に活かした一品に仕上げました」

 もちろん作ったのはちょう助だが、花は試食をした際にはこんなにも甘酸っぱい気持ちになるお菓子があるのかと、感動しきりだった。

「間に挟まっているクリームも、だいだい入りのチョコレートガナッシュとだいだいジャムの二種類を用意しております」

 どちらも最高に味わい深い一品だ。
 花は手に取った皿に宣言通りマカロンを二種類乗せると、未だに気持ちが揺れているらしい薙光に差し出した。

「どうぞ、召し上がってみてください」

 花に言われて、薙光は一瞬、躊躇する素振りを見せた。
 けれど、すぐに迷いを払うように咳払いをすると、「では……」と呟き、オレンジ色のマカロンを手に取った。
 薙光が手に取ったのは、だいだい入りのチョコレートガナッシュが挟まれたマカロンだった。
 薙光は、マカロンを初めて食べるようだ。
 手の中のマカロンをまじまじと見たあと、恐る恐るといった様子で口へと運んだ。