「"日本一の御一行様"に相応しい、"日本一のだいだい"を使ったデザートバイキング。それこそが、今回デザートバイキングをご提供する上でのテーマのひとつでもありました」

「日本一の……?」

「はい。先程、八雲も申しました通り、デザートバイキングはつくもで初めてお客様にご提供する特別なサービスになります」

 ここへきて、先程八雲が打ってくれた布石が効いた。
 自然と笑みが零れた花は、ひと呼吸置いたあとで畳み掛けるように言葉を続けた。

「私達がご提供するデザートバイキングは、薙光様率いる御一行様にこそ、ふさわしいおもてなしだと信じております。デザートバイキングは甘いものだけでなく、軽食もご用意させていただいているのを、薙光様はご存じですか?」

 言いながら花は、ここ数日で試食した、ちょう助が作った数々の料理を思い浮かべた。
 どれも最高の味と見た目の、極上の一品ばかりだった。

「現世では、疲れたときにこそ甘いものを…と言われます。なので今日は、日頃、素晴らしいお勤めをされている皆様の疲れを、ほんの少しでも癒せるようなお料理を楽しく召し上がっていただきたいというのが、私達つくも一同の願いなのです」

 そこまで言った花は、改めて丁寧に頭を下げた。
 そしてゆっくりと顔を上げると薙光を見て、これまでで一番堂々としていながらも、とても綺麗な笑みを浮かべてみせた。
 花は見事に、役割を果たした。
 花を見つめる八雲の表情は誇らしげで、薙光は再び虚をつかれた表情をして固まっていた。

「薙光様……いかがでしょうか?」

 柔らかな声で、花が薙光の答えを伺う。
 すると薙光はハッと我にかえると視線を斜め下へと逸らし、決まりが悪いといった表情で眉根を寄せて口ごもった。

「そなたらの言いたいことは、よくわかった。よくわかったが、他の者たちの意見も聞かねば判断は──」

「失礼いたします。皆様、既に宴会場でお待ちですが、薙光殿はいかがでしょうか?」

 そのときだ。タイミングよく黒桜から声がかかった。
 黒桜の言葉に再びハッとして顔を上げた薙光は、「皆が既に宴会場に……?」と戸惑いの声を漏らして、どうすればよいかわからないといった様子を見せた。

「薙光様も、是非。早速、宴会場までご案内いたします!」

 そんな薙光を前にすかさず声を掛けたのは花だ。
 当たり前のように自分を案内しようとする花を前に、薙光は困惑している様子だったが、花は半ば強引に薙光を宴会場へと連れて行った。

「こちらが、デザートバイキングをご用意させていただいた宴会場になります」

 そうして、もうすっかり歩き慣れた廊下を進み、宴会場の扉の前で足を止める。
 そっと引き戸を開いたのは黒桜で、花は隣でニッコリと満面の笑みを浮かべた。

「これは──」

 宴会場の中を見た薙光が目を見張る。

「今回は、皆様をおもてなしするために、料理やデザート各40種類に加えてフルーツも約10種類ほどご用意させていただきました」

 花のその言葉の通り、宴会場には色とりどりの料理とデザート、フルーツが所狭しと並んでいた。
 料理は和食を中心としながら、洋食もバランス良く取り入れている。
 デザートも和洋どちらも楽しめる内容になっていて、たった六人の宿泊客ではとても食べ尽くせないような豪華さだった。