「日頃、頑張っている自分へのご褒美にと、スイーツや甘いものを好んで食す男性も非常に増えてきております」

 そう言った花はニッコリと、愛嬌いっぱいに微笑んでみせる。

「増えてきているというよりも、"甘いものを食べるのは女の子特有のもの"という偏見が薄れ、元々甘いもの好きだった男性が堂々と自分の趣向を主張できる世の中になったと言ったほうが正しいかもしれません」

 花の言葉と笑顔に、薙光は虚をつかれた顔をして黙り込んだ。

「だから、甘いものは女性が好むものだという考え方は、少々時代遅れかと思います」

「時代遅れ……だと?」

「申し訳ありません。もちろん、薙光様のお考えが間違っているということを言いたいわけではありませんが、御一行様の中には甘いものが好きだと仰る方もいらっしゃるのではないかと思いまして」

 花のその言葉に、薙光が眉根を寄せて難しい顔をした。
 つまりそれは、薙光以外の御一行のメンバーに甘いもの好きな付喪神がいるのではないか?という花の予想を肯定せざるを得ないということだろう。

「生意気なことを言ってしまって、本当に申し訳ありません。今のは私の一意見として受け止めていただけましたら幸いです」

 けれど花の目的は、薙光を責めることでも言い負かすことでもなかった。
 花はデザートバイキングの意図をきちんと薙光に説明する役割を、八雲から任されたのだ。
 薙光にきちんと理解してもらった上で、楽しんでいただくこと。
 それが今回、つくもが薙光率いる御一行に用意した、最高のおもてなしの基盤なのだ。

「ところで、薙光様。薙光様は、熱海はだいだいの生産量が日本一であることをご存知でしょうか」

 話の趣旨を戻した花は、再び笑みを浮かべて薙光を見据えた。
 不意をつかれた薙光はまた驚いたように目を見開くと、戸惑いを滲ませた声で花の質問に答えてみせる。

「だいだいの生産量が……? 無論、知っておる」

「さすがでございます。私達は薙光様にご予約をいたただいてから今日まで、どのようにすれば皆様に最高のおもてなしができるかを考えておりました」
 
 花の言葉の通り、花はデザートバイキングをすると決めてから、毎日時間があれば何か良いアイデアがないかと試行錯誤し続けた。
 だいだいについても勉強をしたつもりだ。
 その他、デザートバイキングの内容も、いくつもの資料やインターネットの情報を駆使して、ちょう助と話し合いを重ね続けた。

「熱海産のだいだいこそ、今回のデザートバイキングの(かなめ)なのです」

 花の言葉を聞いた薙光が、また難しい顔をして黙り込む。
 薙光は先程から、花の真意を慎重に探っているようだった。