「あ、あの……っ。本当に私は、決してみなさんを馬鹿にしてなんか──」

「──薙光殿の仰るとおりです。現世ではデザートバイキングは、主に女性をターゲットとしているものが多いですね」

「え……」

 それでも精一杯気持ちを奮い立たせて声を上げた花の声を、淡々とした八雲の声が遮った。
 思いもよらない八雲の言葉に花が目を見張ると、八雲は口角を上げてから薙光を静かに見据える。

「なんだと……? ではやはり、つくもは我々を馬鹿にしていると思って良いのだな?」

 低く、地を這うような声を出した薙光を前に、花の心は震え上がった。
 対して八雲は表情を崩すことなく、薙光の言葉と冷たい視線を受け止めている。

「いいえ、馬鹿にしてなどおりません。我々は本気で薙光殿に最高のおもてなしをするべく、デザートバイキングという手段を選んだのです」

 一縷の迷いもない声は、薙光に言葉を挟む隙を与えなかった。

「今回のデザートバイキングでは、この日のためにつくも自慢の料理長が入念な準備を行い、腕を振るった数々の料理を楽しんでいただけるようになっております」

 八雲の言葉に、薙光が僅かに目を細める。
 花はその光景を、息を殺すようにして見つめていた。

「素材を活かした料理の数々。更に技巧を凝らした手の込んだ料理の数々を、一度に好きなだけ楽しめるのです。これは今まで、つくもでは一度も行ったことのない、"特別なおもてなし"であると断言できます」

 ──つくもで初めての、特別なおもてなし。
 その言葉の響きに、薙光の表情が一瞬和らいだのを、八雲は決して見逃さなかった。

「さぁ、花。もう一度、薙光殿に今回のお料理がどのようなものであるか説明を」

「……っ、は、はい!」

 そして、そこまで言った八雲は、斜め後ろで震えていた花の肩にそっと手を当てた。
 そこから先の説明は、花がするべきだという八雲の判断だ。

『大丈夫だ、俺がついている』

 肩に触れた八雲の手から、不思議と八雲の気持ちが伝わってきたような気がして花の顔は自然と前を向いた。

(……大丈夫)

 胸に手を当て、一度だけ小さく深呼吸をした花は、改めて真っすぐに薙光の目を見つめる。

「──まず、薙光様。失礼ですが薙光様は先程、スイーツは女性が好むもので、名刀である我々には不釣り合いだ……というニュアンスのことを仰っしゃいましたが、そこから否定させてください」

「……なんだと?」

 心を奮い立たせ、自分と堂々と対峙した花を前に、薙光は驚いて目を見張った。

「デザートバイキングは確かに、女性をターゲットとしたものが多いのも事実です。けれど現在では男性でもデザートバイキングに友人連れで訪れることは決して珍しいことではありません」

 巷ではスイーツ男子という言葉もあるほどだ。
 男同士でカフェを訪れ、甘いパンケーキを嗜むというのも今では極々普通のことだった。