「つくもを、どう思うって……」
戸惑いが声に乗る。呟いてから小さく息を吐き出した花は、ドクン、ドクン、と鳴る鼓動の音だけを、やけに鮮明に聞いていた。
八雲は今、何を思って、花に問いかけているのだろう。
八雲は一体、どんな答えを待っているのか──。到底、答えなど見つけられない花は、ゴクリと喉を鳴らして視線を逸した。
「あの、私……」
言いかけて、言葉を止める。
花は今、自分がつくもに対する想いを口にしたら、自分の中の何かが大きく変わってしまう気がして口にすることができなかった。
「……いや、いい。引き止めて悪かった」
そんな花の心情を知ってか知らずか、八雲はそう言ってまつ毛を伏せると花に背を向けた。
その、八雲の反応に胸を痛めてしまう身勝手な自分がいることにも花自身は気がついている。
花はどうするべきかわからず数秒そこに立ち尽くしていたが、しばらくして居た堪れない気持ちになって、「失礼しました」とだけ告げて頭を下げると逃げるように部屋を出た。
「……っ、は、ハァ」
そして、足早に廊下を歩いて八雲の部屋を離れると、最初の角で足を止める。
「な、なんで……」
花はそのまま正面の壁に手をつくと、へなへなと力が抜けたように廊下の隅で膝をついた。
相変わらず、鼓動は激しく波うっている。
花は服の胸元をギュッと強く握りしめると、どうにかして動悸を落ち着かせようと短く浅い息を吐いた。
けれど時間が経てば経つほど、心臓の音は大きくなる一方だ。
去り際に八雲にされた質問と、酷く真剣な八雲の顔が頭から離れない。
(どうして八雲さんは、あんな質問を私にしたの……?)
花が今、つくもをどう思っているのか。
改めて自問自答した花は、深く息を吸って吐き出してから、唇を噛み締めた。
脳裏を過ぎるのは、自分を八雲のところへ送り出してくれた、ぽん太に黒桜、ちょう助といったつくもの面々の言葉と顔だ。
そして、これまで出会った付喪神たち。
大楠神社で会った、弁財天に弁天岩。
気がつけば、いつでも花が前を向けるようにと、そっと後押しをしてくれる八雲のこと──。



