熱海温泉つくも神様のお宿で花嫁修業いたします

 

「確かに、目新しさはある。下手に和のもてなしにこだわるよりも、変わり種を試してみるのもいいだろう」

「じゃあ──」

「ああ、お前の案でいってみよう。既にちょう助も承諾しているのであれば、明日の朝イチから早速、色々と詳細を話し合おう」

 そう言うと、八雲は穏やかに目を細めた。
 八雲の返事に、ホッと胸を撫で下ろした花は思わず、自身の胸に手を当てた。

(よかった……。でも……)

 けれど不意に、一抹の不安が花の脳裏を過ぎる。

「……どうした?」

 花の表情の変化に気付いた八雲が声をかけると、花は一瞬戸惑ったように視線を足元へと落としてしまった。

「本当に……大丈夫でしょうか?」

 不安を滲ませた花の瞳を見て、八雲が僅かに目を細める。

「相手は国宝ともなる付喪神様たちなのに……。デザートバイキングを提供して、ちゃんと受け入れてもらえるでしょうか?」

 改めて冷静になると、花は不安に押しつぶされそうになった。
 国宝である付喪神たちと、デザートバイキング。
 一歩離れて客観的に見れば、まるで相容れない、対極に位置するものにも思えてしまう。
 もしも花の不安が的中して、デザートバイキングのことを伝えた時点で突っぱねられたら、取り返しがつかなくなる。

「これで、薙光さんたちを怒らせるようなことになったら、つくもに迷惑を──」

「大丈夫だ」

「え……」

「怒らせたとしても、俺がどうにかする。だからお前は自分を信じて、いつもどおり精一杯自分がやるべきことをやればいい。お前はお前らしく、薙光たちをもてなすことだけを考えていろ」

 清々しいほど真っすぐで、力強い八雲の言葉に、花は目を見張って固まった。

「こちらが考えたおもてなしを、薙光たちが受け入れるかどうかは結局、やってみなければわからないことだろう?」

 言い終えて八雲は、ふっと顔を綻ばせる。
 八雲の穏やかな笑みを受け止めた花は、また自分の胸の音が高鳴るのを感じて唇を噛み締めた。

(どうしてだろう。今……誰よりも八雲さんに、大丈夫だと言われて安心してる自分がいる)

 思わず、膝の上で握りしめた花の拳に力がこもる。