「し、失礼、します……」
そうして自分を鼓舞した花は、意を決して足を前へと踏み出すと、八雲に言われたとおりに八雲の隣に腰を下ろした。
板張りの床のひんやりとした感触が、熱くなった身体にはちょうど良い。
八雲の部屋の縁側は広縁で、やはり回廊になっていた。
二間続きの部屋を繋ぐように、ぐるりと伸びた縁側は今、八雲と花が座っているところだけ大きく窓が開いている。
庭におろした足が少し心細く感じるのは、花が酷く緊張しているからだろう。
屋外でもなく室内でもない縁側の曖昧な空間は、まるで今の花と八雲の関係を表しているようだった。
「それで……話とは?」
沈黙を払うように口を開いたのは八雲だった。
膝の上で拳を握りしめた花は、勇気を振り絞って話しを始める。
「あの……薙光さん率いる御一行様へのおもてなしについてなんですが……。デザートバイキングのご提供をするのはどうかな?と思いまして」
「デザートバイキング……?」
花は先程ぽん太たちと話したことを、丁寧に八雲に伝えた。
「なるほど、だいだいを主体としたデザートバイキングか……」
花から一通りの話を聞いた八雲は、落ち着いた空気の縁側で、瞼をおろして考え込む仕草を見せる。
「つくもでやるからこそ目新しさもあって、いいと思うんです」
あとを押すように花が言葉を添えると、八雲はゆっくりと瞼を持ち上げた。
八雲の部屋に繋がっている小さな庭は、つくもの表の庭園ほどではないが、緑豊かで手入れも行き届いており美しい。
けれど花は美しい庭ではなく、八雲の横顔から目を逸らすことができなかった。
月明かりの白い光はより一層、八雲の端正な顔立ちを際立たせていて、神秘的に魅せている。



