「デザートバイキングか……。ふむ。悪くないかもしれんな」
と、花の想いに答えたのはぽん太だ。
「……ええ、そうですね。デザートバイキング、良いと思います。通常のバイキングではなくデザートバイキングであるところが今時らしいですし、何より今、花さんが仰ったとおり華やかな宴にもなるでしょう」
続けて、黒桜がそう言って朗らかな笑顔を見せる。
「ぽん太さん、黒桜さん……」
ふたりが賛同してくれたことに感激した花は、自分の鼻の奥がツンと痛むのを感じて涙ぐんだ。
「軽食は、つくもならではの和食を中心にして、デザートは和洋取り揃えてご用意するというのも面白いかもしれませんね」
「……うん。確かにデザートバイキングは、色々と試行錯誤できるのもいいね。黒桜さんが今言ったとおり、和と洋でバランスを見て考えたら面白いものができそうだし!」
つくもの料理長であるちょう助が頷いたのを見て、花は思わず身を乗り出した。
「じゃあ──っ!」
「でもさ、花。デザートって言っても、普通のデザートじゃあ薙光さんたちには満足してもらえないんじゃないかな」
「え……」
けれどすぐに、至極冷静なちょう助の言葉を聞いた花は勢いを無くして押し黙った。
「デザートバイキングをやるにしても、何か、つくもらしさというか、熱海らしさみたいなのを出して工夫をしていかなきゃダメだと思う」
確かに、ちょう助の言うとおりだ。
どこにでもある、ただのデザートバイキングでは、"最高のおもてなし"にはならないだろう。
「熱海らしさ……とはなぁ」
「ふむ……。けれど、ちょう助さんの言う通りでしょうね……」
「うーん」と唸るぽん太と黒桜を前に、花も眉根を寄せて考えた。
「あ……」
そのとき、ふと、"あること"が花の脳裏を過ぎった。
慌てて三人へと視線を向けた花は、また興奮気味に口を開いた。
「熱海特産の、だいだいを使うのはどうですか!?」
「だいだい?」
「はい! この間、八雲さんと大楠神社の茶寮に立ち寄ったときに、だいだいを使ったデザートや飲み物があったんです。それで、八雲さんに聞いたら、熱海はだいだいの生産量が日本一って言ってて……」
料理の詳細は難しくて花には説明ができないが、だいだいなら柑橘類と考えれば軽食にも使えるだろう。
もちろん、デザートにも有効なはずだ。
それに以前ちょう助は、だいだいを使った新作デザートも試作していた。
「だいだいをたくさん使ったデザートバイキングなら、つくもらしさ……熱海らしさも出せますよね!」
声を弾ませた花を前に、ぽん太と黒桜、そしてちょう助も「なるほど」と声を揃える。
「だいだいデザートで、御一行をおもてなしするわけですね」
「それ、いいよ! だいだいを使ったデザートメニューなら既にいくつかストックがあるし……。何よりだいだいなら、軽食にも使えて万能だ!」
ちょう助の言葉に、花は思わず顔を綻ばせた。
「うむ、よいじゃろ。悩むよりもやってみよう、じゃ! あとは八雲にも確認し、薙光たちが来るまでに万全を期すことじゃな」
ぽん太の言葉を聞いた花は、一瞬声を詰まらせた。
そうして視線を足元へと落としたあとで、再度顔を上げると改めてぽん太へと質問をする。



