(ああ、そうだ──)
ここを出たら八雲とも、もう二度と会えなくなる。
八雲はきっとその日が来れば、あっさりと花を現世へと送り出すに違いないが、花は果たしてそのとき笑顔で現世へと帰ることができるだろうか。
「あ──」
そのときだ。握りしめたままだった携帯電話の、お知らせランプが光った。
画面を見ればネットニュースが更新されたお知らせが届いていて、花は何の気なしにそのお知らせをタップした。
【ニューヨークの三ッ星ホテルで料理長を務めた男のレストランが日本に初上陸! オープン記念にデザートバイキングを開催!】
記事にはシェフのインタビューと、宝石のように光り輝くデザートの数々が並んだ写真が添付されていた。
(デザートバイキングかぁ……いいなぁ。あ……この写真、ちょう助くんに見せたらデザートの参考になるって喜んでくれるかも)
「──あ」
と、ぼんやりと画面を眺めていた花は、あることを思いついて目を見開いた。
「そうだよ、デザートバイキング! これなら、もしかして、もしかすると──」
そこまで言った花は携帯電話を握りしめたまま、急いで部屋を出るとちょう助のいる厨房へと向かった。
仲居がバタバタと廊下を駆けてはいけないと、ぽん太には初日に注意を受けたのだが、今日は宿泊客もいないし大目に見てもらえるだろう。



