「ハハ……ッ。っていうか、こんな話、誰も信じないよね」
思わず乾いた笑みが溢れる。
仮に伝えたとしても、友人たちからは花は働きすぎで、頭がおかしくなったのだと思われるに違いない。
結局、友人たちへのお祝いのメッセージだけを綴った花は、どうにか心を奮い立たせて送信ボタンを押したあとで「ふぅぅ〜〜」と長く息を吐いて天井を仰いだ。
そうして改めて姿勢を正すと、鏡の中に写った自分の姿を真っすぐに見つめる。
(考えてみたら……。みんながいる現世では、二十五歳無職、推定実家暮らし、独り身……って、ヤバくない?)
ギュッと携帯電話を握りしめた花は、そのまま鏡台に突っ伏した。
(早く現世に帰って、ちゃんとした就職先を見つけて働かないと。それで実家を出たら私もいずれは、誰かと結婚して子供を産んで──)
と、ふと顔を横に向けた花は、窓の外に浮かぶ月を見て考えた。
一年後……無事に善ポイントを支払うことができたら、そのときにはつくもとはお別れとなるのだ。
付喪神を持たない花は、もう二度とこの場所に来ることはできないだろう。
(そしたら、つくものみんなともお別れなんだよね……)
ここに来たときには、とんでもないことに巻き込まれてしまったと、花は自分の運の無さを悲観した。
けれど今では、つくもの面々と別れることを、まだ先のこととはいえ寂しく思ってしまう自分がいるのも事実だった。
(私が現世に帰ったら、八雲さんも今度はちゃんとしたお嫁さん探しをしなきゃいけないんだろうな……)
嫁候補の花という隠れ蓑が無くなれば、八雲もまた周囲から嫁探しを急かされるのだろう。
ふと、花の脳裏を父の話をしたときの八雲の淡々とした言葉と表情が過ぎる。
──八雲の妻となる女性は、一体どんな人なのだろう。
そう考えたら、何故か花の胸の奥はチクリと針で刺されたように痛んで、花は思わず顔を上げると痛む胸に手を当てた。



