(……って、なんで私、つくものためにこんなに真剣になってるんだろう)
心の中で独りごちた花は、そっと自分の胸に手を当てた。
頭上では見頃を終えた桜の木に、緑の新芽が芽吹き始めている。
花は改めて箒を持つ手に力を込めると、青い空の彼方に目を向けた。
心は揺れる葉のようにザワザワと音を立ててていて、複雑な胸の内を知らせていた。
♨ ♨ ♨
「ふぅ……」
一日の仕事を終え自室に戻ってきた花は、鏡台の前に腰を下ろすと深い溜め息をついた。
今日一日仕事をしながら、薙光御一行のためにできる最高のおもてなしについて考えてみたが、結局これという良案はひとつも思い浮かばなかった。
「どうしよう……」
鏡の中に写った自分を見ながら、つい独り言を溢してしまう。
そもそも、花がこんなにも悩むことでもないのかもしれない。
それでも、つくもに何かあったり仲居として何か失敗をしてクビになったら地獄行きとなるのだから、自分はこんなにも真剣に悩んでいるのだ──と、花は自分自身に言い聞かせていた。
(……私はただ、仲居として任された仕事を全うしようとしてるだけ)
再び小さく息を吐いた花は、ふと顔を上げると自分の顔を静かに見つめた。



