熱海温泉つくも神様のお宿で花嫁修業いたします

 

「薙光殿は宿泊回数が少ないので、他の皆様に比べると私が持っている情報も少ないのですが……」

 それでもいい。今は少しでも何かヒントが欲しいのだ。

「私の知る限りでは、そうですね……。あるときは和歌や短歌を詠んでもてなしたり、宴をひらいて琴、三味線、日本舞踊を披露したり……。ああ、宴会はお好きなようです。おお、百五十年前には流鏑馬(やぶさめ)なんてこともしてますね」

「やぶ、さめ……」

 黒桜の話を聞いた花は、更にガックリと肩を落として項垂れた。
 和歌や短歌、琴に三味線に日本舞踊……。加えて流鏑馬とは、どれもすべて付け焼き刃でどうにかなるものではないだろう。

「どうしよう……」

 「ハァァァ……」と深く溜め息をついた花は箒の柄に顎を乗せた。
 そんな花を前に、明るい声を出したのはちょう助だ。

「花、大丈夫だよ! さっき八雲さんが言ってたとおり、今の俺たちができる最高のおもてなしを考えればいいんだよ。それに、これは花だけの問題じゃないし! 俺も、精一杯がんばるからさ、大丈夫!」

 グッと胸の前で拳を作ったちょう助の言葉に、顔を上げた花は瞳を潤ませて「ありがとう」と返事をした。

「ふむ、ちょう助の言うとおりじゃな。これまでもどうにかなったように、今回もきっと大丈夫じゃろ」

「ええ、そうですね。我々みんなで力を合わせて、精一杯おもてなしをする方法を考えてみましょう」

 心強い古参ふたり組の言葉に、花は「そうですね!」と答えて笑顔を見せた。
 みんなで力を合わせれば、きっと薙光を満足させられるおもてなしも考えつくに違いない。