「すみません……これも、他力本願ですよね」
苦笑いを溢した花を前に、八雲はまた眉根を寄せて押し黙った。
そしてしばらく考え込んだ後、ひとつ小さな息を吐いてから、言葉を選ぶようにして淡々と話を始めた。
「期待に添えず、申し訳ないが……。薙光とは子供の頃に一度会ったことがあるだけで、俺にも彼らの詳しいことはわからない」
「え……」
そう言った八雲は、どこか遠い目をして空を仰ぐ。
「前回、薙光御一行がつくもを訪れたのは、二十四年も前のことだ。その当時はまだ父が八代目としてつくもを切り盛りしていたし、俺はまだ付喪神のことやつくもに関して、大して関心があるわけではなかった」
そう言うと、八雲はそっと瞼を閉じた。
長いまつ毛が目元に影を落とす様を、花は息を殺して見つめてしまう。
八雲の口から、八雲の父の存在を聞かされたのは初めてだった。
改めて考えると人である八雲にも、八雲を産んだ母親と父親がいて当然だろう。
そして今更ながら、八雲が九代目であるなら、八雲の父がつくもの八代目を務めていたに違いないということに思い至った。
花は同時に、以前ぽん太に、『つくもは、あやかしを祖先に持つ境界家の当主が、代々継いで切り盛りしてきた宿』だと聞かされたときのことを思い出して、
「あ……そうだ! それなら、八雲さんのお父さんに、当時はどんなおもてなしをしたか聞いてみるのはどうですか?」
と、思いついたことを口にした。
「八雲さんのお父さんもきっと、薙光さんたちにする最高のおもてなしについて色々と考えたはずですもんね!?」
花自身は言ってからこれは名案だと改めて思ったのだが、反対にその場の空気は凍りついて、気まずい雰囲気に包まれた。



