「なんでも、ここしばらく"刀剣ブーム"とやらで御一行様は大変お忙しかったようで……。今回の宿泊を、心から楽しみにしていると予約の際に仰っておりました」
苦笑いを零す黒桜の言葉に、ぽん太は「どうしたもんかのぅ」と短い腕を組んでから小さく唸った。
対して花も、たった今ぽん太の口から聞かされた"最高のおもてなし"について頭を悩ませてしまう。
「やっぱり、ちょう助くんの作った最高に美味しいお料理をお出しして、ご満足いただく……とかですかね?」
それはさすがに他力本願すぎるかもしれないと花は思ったが、一番に思い浮かぶのはちょう助の料理なのだから仕方がない。
実際に、ちょう助の作る料理の数々はつくもに訪れるお客様の舌を唸らせ、大満足の評価をいただいているのだ。
「──最高の料理を出しただけで満足するくらいの御一行であれば、苦労はしない」
「え──」
そのとき、凜とした空気を連れて八雲が現れた。弾かれたように振り向けば、八雲の淀みのない黒い瞳と目が合う。
ちょう助も一緒だ。ふたりは花たちの輪の前で足を止めると、眉間に深くシワを寄せて瞼を閉じた。
「でも、実際につくもに訪れるお客様たちは、ちょう助くんのお料理に大満足で帰っていきますし……」
突然現れた八雲に、花は思わず反論を試みたがすぐに一蹴されてしまう。
「もちろん、ちょう助の作る料理がつくもの評価を上げているのもわかっている。けれど、それだけでどうにかなるなどと、そんな甘い考えでは薙光に一刀両断されて終わりだということだ」
薙刀だけに一刀両断とは、八雲も上手いことを言う。
しかし、まさに今、自分の意見を一刀両断された花は「むむむ……」と膨れて眉根を寄せた。