「だから御一行様は、現世でいうところの社員旅行で、つくもにいらっしゃるみたいな感じなのですよ」

「社員旅行って……。そんなにすごい付喪神様たちでも社員旅行をするんですね。でも……うん、なるほど。それは、ぽん太さんでも緊張して当然ですね」

 「うんうん」と頷く花を前に、ぽん太はカッ!と、つぶらな目を見開いた。

「バカタレ! そりゃあ、国宝や重要文化財が相手となれば考えるところもあるが、それだけじゃない。御一行の(おさ)である薙光は、とにかく"最高のもてなし"への飽くなき追求をするやつなんじゃよ!」

「最高の……おもてなし?」

 ぽん太の言葉に、今度は花が目を丸くした。
 最高のもてなしへの飽くなき追求とはどういうことだろう。
 まさか虎之丞のように、お客様は神様だという振る舞いをするということなのだろうか。

「薙光は普段から、自分が国宝であるということに誇りを持ち、美術館を訪れるものたちに自分が生きてきた歴史を伝えようと努めているんじゃ」

 ぷにぷにの肉球のついた手で顎を撫でながら言うぽん太は、眉根を寄せて徐に瞼を閉じた。

「だから薙光は我々にも、普段の自分がしているような客に対する最高のもてなしを求める。もちろんそれは決して間違った考えではないし、自分に厳しい薙光が他人にも厳しいというだけの話なのだが……」

 つまり、横暴な振る舞いをしていた虎之丞とは似て非なるものということだ。
 国宝の薙刀の付喪神である薙光は、自分が普段、美術館の来館者に最善を尽くしているから、つくもの従業員にも自分と同じようにお客様に対して最善を尽くすことを求めるというわけだ。
 ぽん太の話を聞いた花は、「なるほど……」と独りごちて頷いた。
 それは確かにぽん太の言うとおり、間違った考えではない。
 薙光は仕事にプライドを持っている付喪神であるということだ。
 仕事に対する姿勢や考え方は、ある意味見習うべきなのかもしれない。