「え……と、一応、まだ夫婦ではない感じです」
まだ、大楠神社からそう離れていない。
いつ、どこでどんな神様が聞いているかわからないと考えた花は、苦笑いを零しながら質問に答えた。
「あら、そうなのね! でもこんな色男と結婚できるなんて羨ましいわぁ」
元気な奥様だ。バンバン!と肩を叩かれた花は、ほんのりと頬を赤く染めながら再び苦笑した。
「こちらのお店は、熱海の名産品を売ってるんですか?」
「まぁ、そういう感じのものも売ってるけど、基本的には寄木細工をベースにして私達が作った工芸品を扱ってる感じ。だから、どれもオススメの一品よ」
「寄木細工……」
花も名前だけは聞いたことがある。
確か、熱海からそう遠くない箱根の伝統工芸品として有名なものだ。
花が以前テレビで見た寄木細工は小さな箱だったが、ここのワゴンに並んでいるのは箱だけではなく、アクセサリーやコースター……食器を運ぶためのトレーなど、多種多様なものだった。
「どれもすごく綺麗だし、可愛いですね……」
思わずしゃがみ込んで、じっくりと商品を眺める花の隣で、八雲は店主の主人と何かを話し込んでいた。
「ありがとう。私はこの、寄木細工独特の幾何学模様に魅了されてね。日本の伝統工芸でありながら、より多くの人に手に取ってもらえるものが作れないかっていつも模索してるのよ」
「──お買い上げ、ありがとうございます」
そのとき、隣の八雲が何かを店主の主人から受け取った。
花は弾かれたように顔を上げて八雲を見たが、八雲は既に購入したものをボディバッグの中にしまいこんだあとだった。