「ん、んん〜〜っ‼」
口に入れた瞬間、クリームの甘さが口いっぱいに広がって、至福の幸せに身も心も満たされていくようだった。
麦こがしの香ばしさが鼻から抜ける。
クリームには胡桃と大納言のあずきが絶妙にマッチして、良いアクセントにもなっていた。
これは、いくらでも食べられる。
旨味の余韻に浸りながら、今度は青橙入り紅茶を口に含んだ。
すると今度は爽やかかつ心地よい香りと味が口いっぱいに広がって、思わず唸らずにはいられなかった。
「ん〜〜〜っ! これ……っ、この組み合わせ、最高です……っ!」
クリームたっぷりのロールケーキに、さっぱりとした味わいの青橙入り紅茶。
ふたつの調和が絶妙で、紅茶が何倍でも進みそうだ。
「でも、なんで青橙なんだろう……」
思わず花が呟くと、花の様子を見ていた八雲が静かに口を開いた。
「熱海は、だいだいの生産量が日本一なんだよ」
「だいだいの生産量が日本一⁉ って、普通にすごくないですか!? 知りませんでした!」
だから、茶寮の店内でだいだいのジャムも売っていたんだ……と、改めて気がついた花は、もう一口、青橙入り紅茶を口に含んだ。
「はぁ……美味しい……」
「……足はどうだ?」
「え?」
そのとき、不意に八雲が花に尋ねた。
弾かれたように顔を上げた花はなんのことかわからず、首を傾げて八雲を見つめる。