「ふたりに会わせるために、俺の力でお前をこの場所の現世と常世の狭間に連れて行ったんだ」
「狭間に……」
やはり、花が弁財天たちと話をしていた場所は、つくものあるところと同じ空間だったのだ。
(ということは、さっきのは周りの人たちには見えていなかったってこと?)
花は思わず辺りをキョロキョロと見渡した。
境内を歩く人たちは花と八雲の変化にまるで気がついていない様子で、それぞれの時間を楽しんでいる。
「ふたりと話している間の俺達は、現世では一時的にそこにいないように見えていたはずだ。というよりも、気配がほとんどなくなっていた……と言ったほうが正しいか」
それがどういう理屈なのか花には理解できなかったが、兎にも角にも弁財天たちの姿を見たのは自分と八雲だけということらしい。
「つくもに帰るぞ」
そうして一通りの説明を終えた八雲は踵を返すと、来た道を戻ろうとした。
ハッと我に返った花は、そんな八雲の袖を慌てて掴むと呼び止める。
「あ、あの! 私……つくもに帰る前に、さっき弁天岩さんと弁財天様が言ってた麦こがしを食べてみたいです……!」
八雲が花を振り返る。
そして、掴まれた袖と上目遣いで自分を見る花の顔を交互に見た。
七福神の中でも紅一点の弁財天が、人に紛れてでも現世に食べにくるという【麦こがし】。
自他ともに認める食いしん坊の花が、是非食べたい思うのは当然だろう。
「ダメ……ですか?」
遠慮がちに尋ねる花を前に、八雲は一瞬固まった。
そして、フイっと視線を逸してから短く息を吐くと瞼を閉じて、とても静かに口を開く。
「……仕方がないな」
八雲の返事を聞いた花は、パァッと表情を明るくした。
「ありがとうございます!」
元気の良い返事を聞いた八雲は目を開けると、花から一歩距離を取った。



