「しかし、八雲の趣味がこのような平々凡々な女子とはのぅ。これなら、どこぞの名家の娘と見合いでもしたほうがよかったのではないか?」
「これ、弁天岩。口を慎みなさい!」
弁天岩の軽口に、今度こそ弁財天がピシャリと叱った。
これにはさすがの弁天岩も身を縮めたが、だからといって花に謝るわけでもなかった。
「まったく、この子は……。花さん、本当にごめんなさいね。この子の言うことは、どうかお気になさらず」
眉尻を下げた弁財天を前に、花は「いえいえ」と小さく首を横に振る。
「弁天岩さんの、仰るとおりですから」
八雲と自分が釣り合っていないことは、花自身が一番良くわかっているつもりだった。
傘姫のときも然り、眉目秀麗な八雲の隣に並ぶのがごく平凡な自分では、見劣りして当然だと考えていたのだ。
「ふん……っ。小娘が、自覚しておるだけマシだのぅ」
弁天岩は、八雲と花が挨拶に来るのが遅れたことに、余程腹を立てているらしい。
尻尾をゆらゆらと揺らして小言を言うと、フイっとそっぽを向いてしまった。
「ほんとにもう……。でも、花さん。今、弁天岩が言ったことは、本当に気にすることではないのよ。あなたはとても可愛らしいのだから……。八雲さんも、本当にごめんなさいね」
弁財天は呆れたように息を吐いて、改めて花と八雲に謝った。
「いえ、弁財天様が謝る必要などありません。そもそも私が、ご挨拶に来るのが遅れてしまったことが要因ですから」
穏やかな口調で答えたのは八雲だ。
するとそれに反応した弁天岩が、再びシャーッと長い舌を出して威嚇した。
「そうじゃ! 貴様がさっさと挨拶に来んのが悪い!」
やはり、弁天岩は挨拶が遅れたことを随分怒っていたのだ。
「……はい、誠に申し訳ありません。すべては私の責任です。ですから、どうか花に当たるのはやめていただけるようお願い申し上げます」
「え……」
そのとき、唐突な八雲の言葉に、花は思わず目を丸くした。
対して八雲は真っすぐに顔を上げたまま、白蛇の姿をした弁天岩を見つめている。



