なんだかまるで、つくもにきたときのようだ──と考えた花は、数回瞬きを繰り返す。
すると何度目かの瞬きのあと、唐突に目の前に見たこともない女性が現れ、思わずゴクリと息を呑んだ。
「え……」
いつ、どのタイミングで現れたのか、わからなかった。
八雲が触れている弁天岩の上に、白い蛇を連れた美しい女性が座っている。
「ふふっ、驚かせてごめんなさい。今日は、来てくださってありがとう」
女性は目を白黒させる花を前に、上品かつ和やかな笑みを浮かべた。
琴の音色のように穏やかで耳に心地の良い声は、女性の美しさをより際立たせる。
「お久しぶりです、弁財天様」
次に口を開いたのは八雲だった。
八雲の言葉にまた驚いた花は目を見張ると、改めて美しい女性の顔をまじまじと見つめた。
(弁財天様って──え、まさか本物の弁財天様?)
花が心の中で問うと、声が聞こえたと言わんばかりに弁財天がニッコリと微笑んだ。
絶世の美女とは、彼女のためにある言葉だ。
傘姫もとても美しい女性だったが、今、花の目の前にいる弁財天は美しさだけでなく神々しさも兼ね備えていた。
「馬鹿者! 何がお久しぶりだ! 挨拶に来いと言ってから、一体何日待ったと思うとる!」
けれど、弁財天のあまりの美しさに見惚れていたら、彼女の膝に座していた白蛇が吠えた。
「弁財天様をお待たせするなぞ、貴様は何様のつもりか!!」
シャーッと長い舌を出した白蛇は、八雲を忌々しげに睨みつけている。
「まぁまぁ、弁天岩よ。せっかく来てくれたというのに、そう目くじらを立てることもないでしょう」
大きく口を開いた白蛇を弁財天が窘めた。
それにしても、弁天岩──ということはまさか、この白蛇が例の【弁天岩殿】ということだろうか。
(まぁ、岩が突然話し出すより、蛇が話し出すほうが違和感はないかもしれないけど……)
などと考えてしまうあたり、花も存外つくものおかげで現世離れが進んでいる。
「それで、そちらの可愛らしいお嬢さんが八雲さんのお嫁様となる子ですか?」
弁財天に尋ねられ、ハッと我にかえった花は慌てて深く一礼した。



