熱海温泉つくも神様のお宿で花嫁修業いたします

 


(それにしても、まさか大楠が本殿の裏手にあるなんて……)

 目的の大楠は、本殿の左脇にある竹林の小道を抜けた先にあるらしい。
 綺麗に舗装された小道は、人ひとり通るのがやっとというほどの道幅だが趣があり、両脇は細い竹に囲まれていた。
 花はまるで、現世にいながら別世界に迷い込んだような錯覚に陥った。
 つくもに迷い込んだ経験があるので、尚更である。
 ぐんぐんぐんぐん、進んでいく。
 すると、道の先に真っ白な暖簾のようなものが見え、それをくぐると大きく開けた場所に出た。

「わぁ……っ!!」

 花は八雲に続いて足を止めると、感嘆の声を上げた。
 目の前に現れたのは見たこともないような太い幹を持つ大樹で、空に向かって大きく枝を広げている。
 大樹の前には小さな祠があり、大樹を背に守るように鎮座していた。

(これが、樹齢二千百年の大楠……)

 花は時を忘れたように、呆然と大楠を見たあと、ふらふらと覚束ない足取りでそばへと寄った。
 この場所だけ、明らかに空気が違う。
 霊感のようなものを持ち合わせていない花でも、大楠から放たれる生命力を全身で感じ取ることができ、鼓動が脈打つのを感じずにはいられなかった。

「すごい……」

 呟いて、花は震える息を吐く。大楠の荘厳さに圧倒されると同時に、心が洗われるような気持ちになった。
 うっかりすると、涙も出そうなほど。
 さすがに樹齢二千百年は、伊達ではない。
 太い幹は地面から生えたいく本もの腕が絡まり合い大樹となったようにも見え、圧巻且つ、とても神秘的だった。

「この大楠は、国の天然記念物にも指定されている。幹を一回りすると寿命が一年延びると伝えられていて、昔から健康長寿を願う者が多く訪れている場所だ」

「寿命が一年延びる……」

 八雲に言われてふと大楠の右側に目をやると、周りをぐるりと一周できるように道が整備されていた。
 入口にはたった今八雲が言ったとおり、【天然記念物】と書かれた石碑が建っている。
 先程から多くの人が大楠の周りを歩いているのは、御利益にあやかるためだったのだ。