「行くぞ」

「は、はい……っ!」

 八雲に声をかけられ我に返った花は、姿勢を正して八雲の隣に立つと見様見真似で一礼した。
 参道の中央は『正中』と呼ばれ、神様の通り道とされているため参拝者はなるべく端を歩くことが礼儀とされている。
 今では常識となりつつある参拝方法を、花は頭の中で反復しながら八雲に続いて鳥居をくぐった。
 敷地内に入ると足先から頭のてっぺんまでを駆け巡るような神秘的なパワーを感じた。
 すぐ隣を流れる糸川のせせらぎと、木々の擦れる音が心地よく花の鼓膜を揺らしている。

「え……もしかして、これが大楠ですか⁉」

 竹林を進むとすぐ右手に、小さな社と大樹を見つけた花は声を上げた。

「これは第二大楠だ。こちらも一応、樹齢千三百年の大楠だが……。樹齢二千百年の第一大楠は本殿の奥にある」

 八雲に言われて「なるほど……」と息をついた花は、第二大楠を再度見上げた。
 樹齢千三百年。どっしりとした足元から大きく別れた幹は、空に向かって枝を幾重にも伸ばしている。
 こちらの大楠だけでも十分立派でたくましさを感じるが、これ以上に長い年月を生きる大楠とは一体どれほどのものなのか。
 考えるだけで花は自身の胸が踊るのを感じた。

「先に行くぞ」

「あ、待ってください!」

 再び歩き出した八雲はそのまま参道を挟んで向かい側にある手水舎(ちょうずや)へと向かった。
 慌てて八雲を追いかけた花はまた見様見真似で身を清めてから顔を上げる。

「あ……あっちはまた、別の社ですか?」

 そのときだ。目の前に赤い鳥居が連なっているのを見つけた花は、思わずといった調子で声を上げた。
 ちょうどその社に向かう女性二人組が、「大楠稲荷社(おおくすいなりしゃ)だってー」と話しているのが耳に入って、なるほど……と納得する。