「それじゃあ今日は、お客様はいらっしゃらないんですね」

 呟いて、花はふと考えた。
 花がつくもで働くようになってから早一ヶ月が過ぎたが、週末にお客様の予約がないというのは初めてだった。
 平日にお客様が泊まりに来ることもままあるが、やはり基本的には週末が忙しい。
 だから週末に向けておもてなしの準備を整えるのが常となっているのだが……。肝心の週末にお客様が来ないのなら仕方がない。
 今日も一日、また次のお客様のための宿泊準備をして過ごすしかないだろう。

「そしたら私は、今日お客様が泊まる予定だった部屋を明日のお客様用に──」

「ああ、そうじゃ。そうしたら花、お前さん、今日は八雲と一緒に大楠(おおくす)神社に行ってくるといい」

 そのとき、花の言葉をぽん太が切った。
 唐突なぽん太の提案に、花はキョトンとして首を傾げる。

「大楠神社、ですか?」

「ああ。大楠神社はのぅ、熱海ではとても有名な神社で、古くから大楠明神様とも呼ばれておるんじゃ」

「熱海郷の地主の神様がいらっしゃるのですよ」

「熱海郷の地主の神様……」

 花が「ほぅ」と頷くと、黒桜がニッコリと笑って言葉を続けた。