「え、宿泊キャンセルですか?」
まだ冬の名残があるつくもの庭で、春の訪れを告げる鶯が鳴いた。
朝から玄関へと続く石畳の掃き掃除をしていた花は、ふらりとやって来た黒桜の言葉に目を見張る。
「はい……。なんでも腰を痛めてしまい、来るのが難しいとか……。当日キャンセルのお客様は、久しぶりです」
残念そうに肩を落とす黒桜の隣で、ぽん太は「まぁそんなこともある」と言いつつ相変わらず呑気に茶をすすっていた。
「付喪神様でも腰を痛めるとかあるんですね……」
「みんな年じゃからのぅ」
「あちこち、身体にガタがきているものは少なくないのが現状です」
やれやれといった様子で息を吐くぽん太と黒桜を前に、花は思わず苦笑した。
百年以上使われているものなら当然ガタがきていてもおかしくないが、それが神様だと思うとやや残念に思えるのはどうしてだろう。