(今の私をお母さんが見たら、なんて言うだろう……)
バカな男に引っ掛かってと怒るだろうか。それとも、花は何も悪くないと励ましてくれるのか。
花は心の中で自問自答しながら、そっと手鏡を鞄の中へと戻した。
──否、戻したつもりだった。
「……えっ」
次の瞬間、つるん、と花の手元から滑り落ちた手鏡は、呆気なく硬いコンクリートの上へと落下した。
同時に、ガシャン!という鈍い音を響かせ、四方八方へとライトアップの灯りを四散させる。
花は一瞬、何が起きたのかわからなかった。
というより、現実を受け止めたくなかったのだ。
「う、嘘、だよね……?」
引っ越し屋の荷物の中に入れて、万が一、鏡が割れたら大変だと思ったから手鏡を自分の手荷物の中へと入れたのだ。
それなのに、まさか──自分が落として割ってしまうだなんて、花は夢にも思わなかった。
「げ、現実……?」
再び力なくその場にしゃがみ込んだ花は、かじかむ手を伸ばして手鏡の本体を拾い上げた。
しっとりとした感触は、間違いなく日頃から花が手にしているものに間違いない。
(ああ、これはすべて現実なんだ──)
悪い夢でもなく、すべて自分の身に起きていることなのだとようやく事態を受け入れた花は、スン、と鼻を小さく鳴らした。



