「今でも私は、源翁様を心よりお慕い申し上げております。願わくば……来世でもあなたに巡り会いたい。そのときはまた向かい合って、こうしてふたりで美味しいものを食べて、笑い合いたい……」
そっと微笑む傘姫の目からは、涙が一筋、頬を伝って零れ落ちた。
傘姫はたった今、本人が言ったとおり、その身が朽ち果てるまで源翁との約束を守り続けるか、今を生きる誰かの手によって供養されるか……その二択でしか、常世へ旅立つ方法はないのだ。
ふたりがまたいつか巡り会い、今のように向かい合って食事をすることはあるのだろうか。
それはまるで、針の穴に糸を通すような運命の確率なのかもしれない。
それでもいつか、ふたりがまた巡り会えますように──と、花は願わずにはいられなかった。
想い合うふたりが今度こそ、いつまでも美しい月を眺めていられるように。
どうか来世ではふたりが幸せになれますようにと、切に願った。
「……申し訳ありません。せっかくのお料理が冷めてしまいますね。本当にありがとう、いただきます」
涙を拭いた傘姫は、そう言って微笑むと改めて両手を合わせてナイフとフォークを手に取った。
窓の外では冷たい雨が木々を濡らし続けている。
花は向かい合って食事をするふたりの姿を、目に焼き付けるように眺め続けた。
♨ ♨ ♨
「ありがとうございました。またのお越しを、心よりお待ちしております」
翌朝も、しぶしぶと雨が降り続けていた。
花は傘姫が差してきた和傘を持って、お見送りに出ると、改めて傘姫に向かって頭を下げた。