「ふふっ、ちょうど今、八雲さんにお茶を淹れていただいていたところなのですよ」

 穏やかな傘姫の声とは裏腹に、八雲の目は確実に、「お前、足はどうした」と言っている。
 花はそれに気づかぬふりを決め込むと、すかさず傘姫の前に三つ指をついて畏まった。

「お話中のところ、申し訳ありません。ひとつご提案があって、傘姫様にご相談したく参りました」

「提案?」

 唐突な花の言葉に、傘姫が不思議そうに首を傾げる。
 キョトンとしながら自分を見る傘姫を真っすぐに見つめ返した花は、逸る気持ちを精一杯押し込めると背筋を伸ばして、なるべく冷静に思いを告げた。

「傘姫様の想い人である和尚様ご本人と、傘姫様を会わせることはできませんが……。和尚様に化けたぽん太さんと、ここで会うのはどうでしょうか⁉」

 花の提案に、傘姫が目を見張る。
 対して八雲は、「おい」と低い声を出すと、花に厳しい目を向けた。

「突然やってきたと思ったら、急に何を言い出すんだ」

「出過ぎた真似をしていることは百も承知です。でも……傘姫様の話を聞いて、傘姫様のために"今日という日"に何かできないかと改めて思ったんです」

 花の言葉を聞いた八雲の顔が、さらに険しいものへと変わっていく。

「だからと言って、ぽん太を傘姫の想い人に化けさせるなど馬鹿げている。そんなことをしたところで死んだ人間が帰ってくるわけでもないのに、傘姫の心を余計に痛めるだけだとは思わなかったのか!?」

 今度は強い口調で糾弾され、花は思わず肩を揺らして口を噤んだ。
 確かに八雲の言うとおり、根本的な解決になっていないことは承知の上だ。それでも傘姫の話を聞いたら、もう一度だけでも想い人に会わせてあげたいと思ったのだ。
 花にはそれだけの思いしかなく、傘姫の心を余計に痛めるなどということまで思い至らなかった。
 もしかしたら八雲の言うとおり、とんでもない提案だったのかもしれないと考えた花の顔が青褪める。