「ほ、ほんとに、そんなことができるんですか!?」
「うむ、なんと言っても、わしはたぬきじゃからのぅ。しかし、傘姫の想い人の風貌がわしにはわからぬ。じゃから化けるためには、傘姫の記憶を読ませてもらう必要があるがのぅ」
「傘姫の記憶を……」
どのようにして読むのかはわからないが、今のぽん太の口ぶりでは何か方法があるのだろう。
そして、それさえできれば傘姫の想い人に化けられる。傘姫の想い人本人に会わせることはできないが、想い人の姿をしたぽん太には会わせてあげることができるのだ。
「でも、それじゃあ根本的な解決には──」
「ちょ、ちょっと私、行ってきます!」
「え、花!? 行ってくるってどこに!?」
ちょう助の言葉を切って、八雲から貰ったタオルで手早く足を拭いた花は、湿っている足袋に足を通して顔を上げた。
「どこって、もちろん傘姫のところ!」
そうして笑顔を見せて立ち上がると厨房を出て、足早に廊下を歩いて傘姫の待つ部屋へと向かった。
そんな花をちょう助は唖然とした表情で見つめていたが、ぽん太は自身の顎を撫でながら、穏やかな笑みを浮かべて眺めていた。
「──失礼いたします、花でございます。傘姫様、中に入ってもよろしいでしょうか?」
梅の間の前に立つと、花は威勢よく部屋の中へと声をかけた。
するとすぐに、「はい、大丈夫ですよ」という返事が返ってきて、花は再度「失礼いたします」と口にしてから部屋の扉を静かに開けた。
「え……」
「……夕食には、まだ少し早いだろう」
けれどその直後、花は部屋の中にいた人物を見て驚いた。
八雲だ。八雲は新しく持ってきたらしい急須を手に、突然やってきた花を見て訝しげに眉根を寄せると、何かを言いたそうに目を細めた。



