「だから多分、傘姫も俺と同じで、花に何か感じるところがあったから自分のことを話したんだと思う。……八雲さんだって、多分同じだよ。相手が花だからこそ、自分の過去の話を打ち明けたんじゃないかな」

 そう言うちょう助は、八雲が子供の頃の話を花にしたのを聞いていたのだ。狭い厨房内なのだから、聞こえていて当然と言えば当然だろう。
 すべてを見越した上で笑うちょう助を前に、花は鼻をスンと小さく鳴らして唇を噛み締めた。

「傘姫の相手がどんな人だったのかはわからないけど、でも、傘姫が今でも想い続けるくらいの人なら、きっと花みたいに優しい人だったんじゃないかな」

 屈託のない笑顔で言うちょう助を前に、花は喉の奥がヒリヒリと痛むのを感じた。

「ありがとう、ちょう助くん……」

「どういたしまして! 俺で良かったらいつでも話聞くから言ってね。いつも味見してもらってるお礼だよ」

 嘘のない笑顔が、花の心を鷲掴みにする。
 つくもに来て泣くことを許された花は、涙もろくなっていた。

「うう……。ちょう助くんが可愛すぎて尊い……」

「尊い?」

「ごめん、完全にこっちの話だから気にしないで……」

 ちょう助は首を傾げたが、花は目に滲んだ涙を拭うと小さく笑って、再び静かに口を開いた。

「ちょう助くん、本当にありがとう。それじゃあ……早速、お言葉に甘えてもいいかな?」

「え?」

「あのさ、傘姫のことなんだけど……。なんとかもう一度、傘姫の想い人に会わせてあげることってできないのかな?」

 突然の花の問いに、ちょう助は目を丸くして固まった。
 もちろん花自身も、自分が無理難題を言っているとは重々承知の上だが、神様の世界ならではの、何か打開策があるかもしれないという僅かな望みも抱いての質問だった。