「……ありがとう、ちょう助くん」

 そんなふうに真っすぐなちょう助だからこそ、花も素直になれるのだ。
 花はちょう助にお礼を言うと、小さく息を吐いてから苦笑した。

「花? どうしたの?」

「……うん。なんていうか……確かに、八雲さんの言うとおりだなぁと思って。付喪神様たちはみんな、自分の気持ちに正直で、裏表がなくて……温かい」

 ぽつりと溢した花は視線を手元に落とした。
 改めて思い返すと、花がこれまで出会ってきた付喪神たちは皆個性的だったが、みんな自分の気持ちに正直な神様ばかりだと気がついたのだ。
 鏡子も、ぽん太も黒桜も、ちょう助も……。虎之丞も自分の気持ちに正直だったために、あのような横暴な振る舞いをしていたのだ。
 そして傘姫も、一途に想い人に心を寄せている。これまで花がもてなした付喪神たちも皆、それぞれに個性豊かな面々だった。

(だけど人は時々、すごく残酷で自分本位で、自分勝手になるもんね……)

 直近の苦い失恋が脳裏をよぎって、花の胸は針の先で刺されたように、僅かに痛んだ。

「花、ほんとに大丈夫? ほんとはすごく痛いんじゃない?」

 再びちょう助に声をかけられ、ハッとして顔を上げた花は慌てて顔に笑顔を浮かべた。

「う、ううん! ごめんね、ほんとに大丈夫! ただちょっと、色々考え事をしちゃって……」

「考え事?」

「……うん。実は傘姫から、傘姫の事情を聞いたの。それでちょっと、色々考えちゃって……」

 本当は、傘姫のことだけではない。八雲から聞いた八雲の幼い頃の話にも、花は胸を傷めずにはいられなかった。

「それで色々考えたら、前にちょう助くんが言ってた言葉を思い出したんだ」

「俺が言ってた言葉?」

「うん……。人って、すごく自分勝手な生き物だ、って。改めて考えたら、その通りだよなぁとか思っちゃった」

 再び苦笑いを溢した花は、視線を足元へと落として俯いた。人が嫌いだと言った八雲の淀みのない瞳が、目に焼き付いて離れない。

「ものにも心があるのに、人の都合で置き去りにされるなんて辛いよね。そう思ったら、ちょう助くんが人嫌いになるのも当然だよなぁ……なんて思って」

 ぽつりと花が呟くと、ちょう助は難しい顔をして視線を花の足元へと落とした。

「……うん。それは確かに、ちょっと前まで俺もそう思ってたし、今でも人が嫌いなことは変わらないけど、さ」

 けれど、そこまで言って不意に言葉を止めたちょう助は、穏やかな笑みを浮かべて花を下から静かに見上げた。

「でも俺、前に言ったじゃん。付喪神にも色々いるみたいに、人にもいろんなやつがいるんだ──って。それで、人は嫌いでも、花のことは嫌いじゃないって言っただろ?」

「ちょう助くん……」

 白い歯を見せて笑うちょう助の笑顔は子供らしいのに、大人びていた。
 百年以上を生きているのだから当然と言えば当然かもしれないが、今はその笑顔が眩しくて、何よりも輝いて見える。