(な、何これ……。いつもはあんなに、無愛想で嫌味なことばかり言うくせに……)
けれど八雲は本当は心根は優しく、誠実な男なのだと、花は思わざるを得なかった。
「あの……八雲さん。八雲さんは、これまで人を好きになったことってありますか?」
気がつくと花は、八雲にそんな質問を問いかけていた。
突拍子もない花からの問いに静かに顔を上げた八雲は、何事かと目を見開いたが、すぐに「……ああ」と呟き納得したように息を吐く。
「傘姫から、話を聞いたのか?」
「はい……。付喪神である傘姫が、人に恋をしているという話と……そのお相手が、五十年前の今日亡くなったという話を、傘姫本人から聞きました」
言ってから花は、人の心に土足で踏み込んだと八雲には糾弾されるのではないかと心配もした。
けれど八雲は花を叱るようなことはせず、「そうか」と呟き、また長いまつ毛を伏せて沈黙を作った。
「それであの、八雲さんは……」
「ない」
「え……」
「お前からの質問に答えるのなら、返事は"ない"だ。俺は──人が嫌いだからな」
人が嫌い──。
思いもよらない八雲の答えに、花は目を丸くして固まった。
「……先日、ぽん太から聞かされていただろう。俺は一応種別は"人"だが、僅かにあやかしの血を引いている」
花は思わず息を呑む。以前、ぽん太たちと立ち話ししたことを、やはり八雲は聞いていたのだ。
「そのせいで子供の頃は、よく"妖怪の子"と言われて虐められた」
「妖怪の子……?」
「そうだ。【境界】の名がつく者は古くから、あやかしの家系だと、この地に住むものなら大体のものが知っている。だから俺がどんな不遇な目に遭おうとも、大人も見て見ぬふりで決して手を差し伸べてはくれなかった」
「そんな……」
つまり、子供たちに虐められたり仲間はずれにされている八雲を、大人たちも助けようとはしなかったということだ。
「もちろん当時は腹も立ったし、絶望もした。だけど別に、現世でひとりでいることを寂しいとは思わなかった」
「え……」
「俺の周りにはいつも、ぽん太を始めとした付喪神たちがいたからな。付喪神たちは人とは違い、基本的に裏表がない。自分の感情に正直なんだ。だから俺にとっては人よりも、付喪神たちとの繋がりのほうが濃く特別で、何よりも心地よく、温かかった」
人よりも付喪神たちのほうが信じられる──。
そこまで言った八雲は徐ろに立ち上がると、近くにかけてあった手ぬぐいを花に手渡した。



