熱海温泉つくも神様のお宿で花嫁修業いたします

 

「……やはり、少し赤くなっているな」

 運ばれていたのは沸かしたての湯だった。
 八雲の言うとおり、右足の小指と薬指がほんの少しだけ赤く色づいているが、それよりも花の顔のほうが真っ赤だ。

「少し、我慢しろ」

 八雲はそう言うと立ち上がり、近くに置いてあった手桶を手に取り水を張った。そして再度花の足元に跪いて手桶を置くと、花の右足を掴んで冷水に浸した。

「冷えると思うが、このまましばらく冷やしていろ」

 まるで壊れ物を扱うような八雲の手つきに、花は胸の鼓動が高鳴るのを感じずにはいられなかった。

「……痛みはないか?」

 相変わらずの難しい表情だが、いつもより八雲の声が優しい……ような気がする。
 窺うように上目遣いで見つめられ、花は思わず目を左右に泳がせて、汗を飛ばした。

「だ、大丈夫です! お湯がかかったと言っても、本当に少しだけなので……! こんなの全然平気です! 私、何を食べてもお腹を壊さないのと、頑丈なことだけが取り柄なので!」

 赤くなった頬を隠すように、花は自分の顔の前に手のひらを置いて答えた。
 実際、脱がされた足袋を見ても右足の先が濡れている程度だ。かかったときには驚いて悲鳴を上げたが、今はもうそのあと八雲に抱きかかえられて丁寧に扱われていることのほうが落ち着かない。

「というか、傘姫のところにお茶を持っていく途中だったんですよね? すみません、せっかくのお茶を無駄にしてしまっただけでなく、廊下を汚してしまって……。このあと、すぐに片付けますから! でも、八雲さんにお茶がかからなくて本当に良かったです……」

 恥じらいを誤魔化すために饒舌になった花は、そう言うと、ヘヘッと小さく笑ってみせた。
 そんな花を見て八雲は呆れたような息を吐くと、跪いたままで花の顔を静かに見上げる。

「いや、廊下の片付けは今から俺がしてくるから、お前は気にしなくていい」

「え……。で、でも……」

「それに足は実際、赤くなっているのだから、大丈夫ということはないだろう。火傷あとにならないといいが……その場ですぐに、足袋だけでも脱がせれば良かったな」

 「気が付かなくてすまない」と言ってまつ毛を伏せた八雲を前に、花は今度こそ胸がギュッと締め付けられるのを感じた。