熱海温泉つくも神様のお宿で花嫁修業いたします

 


「え──?」

「馬鹿……っ! すぐにこっちに来いっ!!」

「ひ、あ……っ!」

 そして次の瞬間、花の身体が宙に浮いた。
 何が起きたのかと花は身を強張らせたが、すぐに状況を理解すると目を白黒させながら狼狽えた。

「あ、あ、あのっ、八雲さん!?」

「俺より、まずは自分の心配だろう‼」

 八雲は花を両腕に抱きかかえると、声を張り上げ一喝する。

(で、でも、これは所謂お姫様抱っこというやつじゃ──)

 とは、まさか口に出しては言えなかった。
 身体と身体が密着すると、心臓の音まで聞こえてきそうだ。初めて見る八雲の余裕のない表情を前にして、花は思わず息を呑んだ。
 そうして足早に廊下を歩いた八雲は、花を抱きかかえたままちょう助のいる厨房へと向かった。
 入口にかけられた暖簾をくぐると、夕食の準備をしていたちょう助に向かって声を投げる。

「え、八雲さん──と、花!? どうしたの!?」

「ちょう助、手桶を借りるぞ! あと余裕があれば、砕いた氷を用意してくれ」

 夕食前の厨房は、忙しい。けれど八雲は厨房に着くなりちょう助を呼びつけると、端的な指示を飛ばした。
 そしてその間に厨房の隅に置かれた椅子に花を降ろすと、花の足元に躊躇なく跪いて花が履いていた足袋を手早く脱がした。

「あ、あの……っ、自分でやりますから……っ!」

 男に初めて足の甲に触れられた花は思わず身じろいだが、八雲はそんなことはお構い無しで花の足に指で触れる。