──付喪神と人の恋。それは一体、どのようなものなのだろう。
そもそも付喪神と人が恋に落ちるなど、現実的にあり得ることなのだろうか。それこそ日本昔ばなしや神話の世界のような話で現実味がないが、それを言ったら今の花の状況も、十分に現実味のないものだった。
非現実的に思える、神様と人との恋路。
それでも恋焦がれた相手を失う辛さは、きっと神様も同じなのだろうと傘姫を見て思った。
齢二十五の花も、一応失恋の辛さは知っている。とはいえ花の場合は騙されていたといっても不倫なので、傘姫の恋とは比べるのも烏滸がましいものだろう。
五十年も前に亡くなった想い人を、今でも一途に想い続けている傘姫の心は清らかで、美しい。
同時に、もう二度と会うことのできない相手を想い続ける心情は、一体どれほど苦しいものかは想像に難しくなかった。
「きゃ……っ!!」
「──っ!」
そのときだ。花は廊下の角を曲がったところで、前から来た影とぶつかった。
直後、ガシャン!!と何かが割れる音がして、跳ねて広がったものが花の履いていた足袋を濡らした。
「あ、つ……っ!!」
床に転がったのは急須で、中には熱いお湯が入っていた。
咄嗟のことに花は短い悲鳴を上げたが、すぐに顔を上げて事故の相手を確認する。
「あ──!」
ぶつかった相手は八雲で、足元には八雲が運んでいただろう急須と湯呑み、そしてそれらが乗っていたお盆が転がっていた。
「す、すみませんっ。私、ぼーっとしていて……っ! や、火傷しませんでしたか!?」
花は青褪めた顔で八雲を見上げてから湯がかかっていないかを確認したが、八雲は険しい表情で花の腕を強く掴んだ。



