「あら、そんなことは……」
「それよりも、傘姫様みたいに綺麗で素敵な方から想われるお相手様のほうが気になります」
「え……?」
「もしも私がお相手の殿方だったら、傘姫様のような方に想われて、最高に嬉しくて天にも登るような気持ちになると思いますし、きっと自分は世界一の幸せ者だと思うと思います!」
まくし立てるように言った花は、傘姫を前に満面の笑みを浮かべた。
言葉にしたことは本心で、一欠片の嘘もない。
実際、傘姫は花の誤解を解こうと必死になるほど心の優しい付喪神様だ。天女様のように美しい見た目をしながら性格もいいとなったら、向かうところ敵なしだろう。
「傘姫様に思われている殿方は、幸せですね」
しかし、そう言った花を前に傘姫は一瞬だけ困ったように眉尻を下げてから、ふわりと曖昧な笑みを浮かべた。
「ありがとう……。そうだと良いのだけれど」
不思議に思った花は、思わず首を傾げてしまった。そんな花を前に、傘姫は一瞬口篭ってから、とても静かに言葉を続ける。
「私のお慕いしている方はね、あなたや八雲さんと同じ"人"なのです」
「え……?」
「ちょうど五十年前の今日亡くなって、もう会うことは叶わないのだけれど……。それでもあの方が生前、私といることを幸せだと思っていてくださったのなら……それはこの上なく幸せなことだと、私自身も思います」
寂しげに微笑む傘姫を前に、花は返す言葉を失った。
傘姫の想い人は花と同じ"人"で、五十年前の今日、亡くなっている。
(それじゃあ、毎年、今日という日が傘姫にとって特別な日っていうのも──)
グッと唇を引き結んだ花は、呆然としたまま傘姫を見つめることしかできなかった。
「大丈夫、どうか気に病まないでください」
儚げな笑顔を浮かべる傘姫を見て、花は必死に瞬きを繰り返してなんとか言葉を振り絞った。
「す、すみません、私、傘姫様のお気持ちも考えずに軽率なことを言ってしまって……」
「いいえ、あなたが気にすることではないわ。それに、私に想われている彼は幸せだと言ってくださったこと、私はとても嬉しかったの。だから、あなたになら事情を話してもいいと思ったのですよ」
そう言うと傘姫は、長いまつ毛を伏せて自分の手元へと目を落とした。
「彼は、今も私のいる寺院で僧侶をしていたの」
「僧侶……和尚さん、ですか?」
「ええ。それでね、その彼が亡くなった日に、彼が亡くなった場所にひとりでいるのは辛いから、毎年この日はここを訪れるようにしているの」
音もなく微笑んだ傘姫は、毅然とした様子で顔を上げた。それに花は僅かに違和感を覚えたが、今は傘姫の言葉に耳を傾けることしかできなかった。



