ダイニングテーブルに広がる、シノワズリの世界。

差し色に赤を利かせた濃紺のテーブルクロスには、ジノリの食器が照明の光を受けて宝石のような光沢を放っている。

花瓶には、ナプキンと同色の真っ赤なガーベラが生けられていた。

唐突に現れたエレガントでエキゾチックな空間に、直樹は感心すると言うより、唖然としている。

「……すごいな、これ。さくらがやったの? もしかして、食空間演出講座習ってるから?」

「そう。食器とかも、貸し出してくれたんだよ」

「そうなんだ……」

「うん」

「そっか」

 なぜか、気まずい雰囲気で会話が途切れた。

 本当に直樹の本音が聞き出せるのだろうか。たとえ聞き出せたとしても、それはさくらにとってよいものなのだろうか。

そんな疑いと焦りが、またしてもさくらの胸に押し寄せる。

 キッチンに移動したさくらは、あらかじめ作っておいた八宝菜を温め直し、深皿に盛りつけて直樹のもとに戻る。

 豚バラ肉、うずらの卵、えび、白菜、にんじん、きぬさや、きくらげに加え、ヤングコーンも入れてみた。中華あんは、鶏ガラスープをベースに、酒、砂糖、しょう油、塩コショウで味を調え、片栗粉でとろみをつけてある。

「すごいな」

 平皿の上に重ねるように皿を置けば、彩り豊かな八宝菜を前に、直樹が驚いた顔した。

「これ、さくらが作ったの? 八宝菜はレトルト派じゃなかったっけ?」

「せっかく素敵な食器を貸してもらったのに、レトルトじゃもったいないって思って」

直樹の好物である八宝菜を、今までも用意したことはある。けれども直樹の言うように、今まではレトルトに頼っていた。

そもそもさくらは、料理が別に得意ではない。かといって、苦手というわけでもなく、基本の料理くらいはなんとなく作れるというレベルである。

「作り方は、お店の人にアドバイスしてもらったの」

「お店の人って、あのイケメン店長?」

「ううん。もうひとりの店員さんの方」

 八宝菜を手作りしたことがないとこぼしたさくらに、良太はおずおずとたくさんの助言をくれた。

歯ごたえを出すために、必ずきくらげは入れた方がいい。とろみを均一にするために、片栗粉はあらかじめ水でしっかり溶いて、いったん火を消したフライパンに回し入れるといい。

 頼りなげな見た目に反して、彼のアドバイスは的を得ていたように思う。

きっと料理が好きなのだろう。

「いただきます」