反対に位置する、四人掛けのテーブル側の扉は、厨房になっている。

料理のないレストランに、どうしてここまで立派な厨房があるのか謎だが、アイランド式のキッチンに大型の冷蔵庫から、大小さまざまな調理器具に至るまで、良太には恐れ多いほどの設備が整っていた。

ルイは厨房とは反対に位置する扉へと、祖母を案内した。

そこはどうやら、個室に続くようだ。

「ここは……」

 扉の先で、祖母が息を呑む。

 ガタンガタン、と列車の進む音が響いている。

 薄暗い室内には、幾何学模様の施されたチャコール・グレイの絨毯が敷き詰められ、四人掛けのテーブルが三つ直線状に並んでいた。

どのテーブルにも白いダマスク織のクロスが掛かっており、透き通ったバカラのガラス花瓶には、ミモザが扇状に生けられている。

光沢ある焦げ茶色の壁には、車窓からの風景が映し出されていた。

夕暮れの空を流れる、青々としたヨーロッパの山並み。時折山の峰に現れる塔のシルエットが、ここが異国であることを物語っていた。

映像に連動して響く列車の音は、埋め込み式のスピーカーから流れているものだろうか。
窓と窓の映像の間には、スズラン型のアンティークランプ。

窓から光が射し込んでいるかのように、室内にはオレンジ色の淡い光が落ち、列車の動きに合わせて時折影を作る。

予想をはるかに超える演出に、良太は虚を突かれた。

見た目、音、空気感、全てが一体となって、六十年前の異国の食堂車を再現している。

モノクロだった写真の世界が、色を伴って今に蘇ったかのようだ。

「六十年前の、オリエント急行の食堂車でございます」

 ルイが、一番手前にある椅子を厳かに引いた。

「お客さま、どうぞお掛けになってください」

 室内でただひとり平然としているルイは、まるで不思議の世界へと迷い人を誘う案内人のようだ。これがきっと、プロの所業なのだ。何もかもが中途半端な良太とは、まるで違う。

「良ちゃんとルイ君が用意してくれたの? ありがとう、あの頃に戻ったようだわ」

 ようやく、理解が追いついたのだろう。
祖母が、ルイに促されるがまま椅子に腰かけた。