けれど今は、奥の部屋のベッドに寝転びながら絶え間なく咳き込んでいる蓮の方が心配だ。
だから私はお母さんに向け、笑顔を見せる。私は一人で大丈夫だよ、と伝わるように。
それから数分後、用意も終わり、病院へ向け出発するお母さんと蓮を見送りに玄関まで降りる。
お母さんの腕に抱かれた蓮は、コホコホと激しい咳を繰り返していて、胸を押さえとても苦しそうな様子。それに加え熱も高いから、顔もユデダコのように真っ赤だ。
「お姉ちゃん……」
「ん?蓮、どうしたの?」
ふと蓮が私の方に手を伸ばし、か細い声で私のことを呼ぶ。私は蓮に近付くと、小さい掌を優しく包み込んで首を傾げた。
「お姉ちゃんとまた少しだけ、会えなくなるのかなあ。……嫌だなあ。今度はお姉ちゃん、僕に会いにきてくれる……?」
涙がこぼれ落ちそうなほど潤んだ瞳を私に向けた蓮は、またすぐに顔を歪め、激しく咳き込み始める。
その言葉になぜか泣きそうになったのは、私の方だった。
それはきっと、蓮がこんなにも私に会えなくなるのが嫌だと思ってくれているのだと知ったから。……その瞬間、以前のゴールデンウィークの出来事が脳裏に蘇る。
あの時の私は、蓮のお見舞いには行かなかった。あかりや悠真くん、柊斗との時間も大切にしたいからという理由で。その後もなんだかんだでお見舞いには行けず、再び蓮と顔を合わせたのは、蓮が退院して自宅へ帰ってきてからだった。
けれど、もしかすると。
蓮はあの時もこうして、私に会えなくなるのが嫌だと思いながら病院へ向かったの……?入院していた間、いつお姉ちゃんがお見舞いにくるのかと、寂しさに耐えながら私のことを待ってくれていたの……?
当時の蓮の気持ちを想像すると、胸がきつく締め付けられる。
……ごめんね、蓮。でも、今度はきちんと会いに行くから。もしも蓮が入院になったとしても、蓮が寂しくないように、頑張れるように。
「蓮、お姉ちゃん、絶対会いに行くよ。病気をやっつけるために頑張ってる蓮のこと、応援しに行くからね」
そう言って蓮の頭に手を伸ばし、蓮のことを安心させるようにゆっくりと髪の毛を撫でる。そしたら蓮は、苦しそうな表情の合間にもにっこりと笑顔を見せてくれた。
「じゃあ、凪。行ってくるわね」
「うん。気をつけてね」
家を出て行ったふたりの背中を見送る私。蓮が早く良くなりますようにと心の中で強く願いながらも、私はさっきお母さんの部屋の前で話した時のようにこのやり取りにどこか既視感を感じてしまう。