堤防に腰かけていた私はシャツの袖を少し捲り上げると、目の前に映し出される美しい光景をぼんやりと眺めていた。

ここへくると、いつも柊斗のことを思い出す。

悠真くんと話してからは、できる限り柊斗の隣にいようと思えるようになった。

そうすることが、少しでも柊斗の心を軽くするということに繋がると信じているから。

私があかりと向き合うと決めたときも、一歩立ち止まっていたときも、柊斗はそばにいて優しく声をかけてくれた。……それならば。私も柊斗がお母さんや妹と向き合える日まで、ずっと柊斗のそばに寄り添っていよう。

この場所へ座っていると、改めてそう思うことができたんだ。

「……さあ、そろそろ帰ろうかなあ」

ジーンズの後ろポケットに入れていたスマートフォンを取り出し、現在の時間を確認すると、午後六時前。思っていたよりも長居してしまったみたいだ。

夏は他の季節に比べ日が落ちるのが遅い。けれど、あと一時間程経てば薄暗くなり始めるだろう。……そうなる前に自宅へ帰ろう。そう思い、私はその場に立ち上がると、堤防を後にする。

……たまには、違う道を通って帰ろうかなあ。

ふと思い立った私は、細い路地があるいつもの決まった道ではなく、住宅街を抜けながら帰ることにした。

足を進める度に、生温い風が私の頰を掠める。昼間に比べると、暑さにより汗が噴き出るということはないが、それでも決して冷たいとはいえない風を浴び続けると、体の芯から熱されているような気分だ。

私はバックから持参した水筒を取り出す。カランカランと、まだ溶けきっていない氷が涼しげな音をたてた。お茶で喉を潤しながら歩き始めること数分。

もうすぐ駅が見えてくるだろうかと思っていたら、住宅街の一角に小さな公園が存在しているのが視界に入る。

こんなところに公園があったんだ、と新鮮な気持ちを抱きながらそこを覗くと、蓮と同い年くらいの小さな子どもたちがキャッキャと声を上げながら走り回っていた。

どうやら保護者は、近くのベンチで子どもを見守りつつも、話に花を咲かせているようだ。

半袖にハーフパンツ姿で、無邪気に公園を駆け回る小さな身体。いくらこの時間帯とはいえ、こんなにも走り回れば汗も散る。それでも元気に活動している姿を見れば、感心すると同時に、思わず笑みがこぼれる。

「……あれ?」

数十秒ほど子どもたちを眺めていたところで、私はあることに気が付いた。小さな身体の子どもたちに混じり、一人だけ小学校高学年から中学生くらいの少女がいることに。

あの子、以前にどこかで見たことあるような……。そんなことを思い、目を細めてよく目を凝らすと。

「やっぱり、日菜ちゃんだ」

彼女は、柊斗の妹だった。日菜ちゃんは数人の子どもと追いかけっこをしたり、抱っこをしてあげたりして楽しそうに遊んでいる。