「なあ、凪ちゃん」

語りかけるかのように呼ばれた名前。悠真くんの真剣な面持ちに私まで気が締まり、背筋がピンと伸びる。

「柊斗は真っ直ぐで、優しくて、自分のことを後回しにしてでも周りの人を大切にできる、そんなやつだ。あいつは常に妹を全力で守り続けてきた。だから俺も、できる限り柊斗の役に立ちたい。……俺の大切な友達なんだ」

そう告げた彼の表情も、言葉も、声の強さも。その全てが、本当に柊斗のことが大切なのだと物語っている。

悠真くんはやんわりと固かった表情を崩すと、再び唇を開いた。……それはとてもとても、優しい顔。

「だから凪ちゃん。どうか、柊斗に寄り添ってあげててよ。凪ちゃんはさっき、そばにいることしかできなかったって言ったけど。それだけできっと十分だよ。俺さ、凪ちゃんと一緒にいる柊斗が、人間らしくて好きなんだよな。あいつが自分を取り戻していくようで嬉しいんだ」

そう言って、彼はさらに目尻を落とし笑う。その笑顔と彼がくれた言葉は、何よりも私の心の奥底に深く響いた。

悠真くんは、言ってくれた。

どうか柊斗に寄り添ってあげていてと、それだけで十分だと。……それならば、きっとこれこそが私が探していた答え。

寄り添うだけでは柊斗の助けになっていないと思ったいた私だけれど、そうではないのだ。

「ありがとう、悠真くん」

私が柊斗に寄り添えば、柊斗の心は晴れる。私が柊斗の隣にいれば、柊斗は自分らしくあれる。……たとえそれがほんの僅かな効果だとしても、私は柊斗のそばにい続けよう。

目の前で心からの笑顔を浮かべている悠真くんを見ながら、私はそう決意し、力強く彼に頷いて見せた。

柊斗のことを助けたいと思っているのは、私だけではなかったんだ。ここにいる悠真くんも、柊斗と出会った時から私と同じ思いを持ち、日々柊斗と接している。

……そして、私と悠真くん以外にも、〝大好きな柊斗の笑顔を守りたい〟と思っている人がいることを私は週末に知ることになる。

それは、予想もしなかった突然の出会いだった。

その日は日曜日で、午後から時間を持て余していた私は、なんとなく柊斗の最寄り駅近くにある堤防へ海を見に出かけていた。

実は、空と海の青が織り成すこの景色がかなりお気に入りで、時間がある時や、ふと眺めたいなあと思った時、いつも電車に揺られこの場所へ足を運んでいるのだ。

もうすぐ八月も下旬。今日も空はカラッと青く澄み切っていて、その下にある広大な海面にその綺麗な色を映している。そこへ太陽の光も差し込めば、辺りはまるで光の水溜りのよう。